研究課題
2020年度は、ワクフ(寄進)文書を史料として、そこにあらわれる家族形態についての本格的な分析を開始した。折しも、アウラード・アンナース(awlad al-nas)と呼ばれるマムルーク軍人の子孫の社会的役割に焦点を当てた国際ワークショップが12月に開催されたことから、報告者もThe descendants of Mamluks in waqf documentsというタイトルで発表を行った。この発表では、マムルークたちが自身の子孫が利益を得るためにワクフを盛んに設定したというイブン・ハルドゥーンの見解をもとに、現存するワクフ文書から受益者や管財人を指定したワクフの規定がどのようなものであったか探り、マムルーク軍人にとって、自身の資産をワクフとして継承する資格がある「子孫」とは、どの範囲を指すのか、というマムルークの家族/子孫観を明らかにすることを試みた。それにより、以下の四点を明らかにした:①マムルークたちが子孫を受益者に指定する場合、男性が女性の二倍の権利を持つイスラーム法上の相続法とは異なり、男女が均等の権利を有することが常態であった、②一方、管財人に子孫を指定する場合、時に女子を管財人から排除する場合もあった、③男系子孫と女系子孫も基本的には同格に扱われていたが、時に管財人や受益者として男系子孫を女系子孫よりも優遇することも見られた、④ワクフから利益を得ていたアウラード・アンナースは、寄進者自身の子孫のみならず、配偶者(アウラード・アンナースであることが多い)やその兄弟縁者、あるいは寄進者のマムルークの子孫たちなど、幅広い範囲を含んでいた。以上の成果は、ボン大学出版会から刊行される本ワークショップのプロシーディングスに論文として掲載予定である。
2: おおむね順調に進展している
ドイツで開催予定であった国際学会が、コロナのためZoomによる開催となったものの、無事開催され、発表も行うことができた。寄進文書の分析を進め、具体的成果をあげることができた。
国際会議で発表したペーパーをもとに、英語の論文を執筆する。寄進台帳のデータベース化とその分析を進めていく。
コロナの流行により、予定していた海外出張ができなかったため。次年度も海外出張は難しい情勢であるため、日本で研究ができるように海外からの文献の調達に努めるとともに、英語での論文発表に注力し、英文校閲費として支出する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
オリエント
巻: 63-2 ページ: 205-214
巻: 63-1 ページ: 62-67