研究課題
本年度は、軍人支配層であるマムルーク軍人の家族形態について、現在この分野の代表的論客であるKoby Yosef氏の諸論文を読み進めた。また、昨年度に国際会議“In search for a hidden group: Where are the awlad al-nas?"で発表した、ワクフ(寄進)文書を用いたマムルークの家族・血縁・ジェンダー観に関する研究を、会議のProceedings用に英語論文にまとめた(ボン大学出版会より2022年度刊行予定)。その過程で、三人の王妃を輩出したKhassbak家という一族の存在に気が付いた。奴隷出身であるマムルークたちの結婚相手を一族から出し、姻戚としてマムルーク軍人社会で隠然たる影響力を握るとともに、奴隷出身のマムルークたちを姻族関係で結びつける役割を果たしていたという、これまでに知られていなかった新たな発見が得られた。研究の最終年度に向け、ワクフ文書とワクフ調査台帳の家族・奴隷関連の情報の整理に入った。家族に関する受益者規定と管財人規定の基本的なパターンとそこからあえて外れた、おそらく個人の家族の状況や家族観に基づいたパターンをまとめ、それらからマムルークたちの家族観の一端を明らかにするよう、分析を進めている。また、資産の保全手段としてのワクフの役割に注目した論文“Waqf as a Means of Securing Financial Assets: The “Self-Benefiting Waqf” in Mamluk Egypt and Syria”を発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
予定していた海外調査には行けていないものの、手持ちの史資料の分析を進め、論文として発表できるレベルにまで考察を深めることができている。
マムルークの家族の分析を、現在は血縁者や姻族を対象に進めているが、今後は非血縁的結びつきを持つ家族(世帯)構成員である奴隷・解放奴隷を分析の俎上に挙げ、より広い範囲でマムルーク家族研究を進めていく。折しも、2022年度に奴隷と従属に関する日独国際会議の開催が予定されており、成果の一端をそこで発表する予定である。
コロナのため予定していた海外出張ができなくなったため2022年度は海外調査や海外の学界参加も可能になると考えており、渡航費として支出したい。また、英語で発表、論文執筆のための英文校閲費にも支出したい。
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中央大学アジア史研究
巻: 46 ページ: 63-82
Analia Levanoni (ed.), Egypt and Syria under Mamluk Rule: Political, Social and Cultural Aspects, Leiden:Brill
巻: - ページ: 277~291
10.1163/9789004459717_013