本研究は1943年に日本軍によって設置されたユダヤ人居住区(通称「上海ゲットー」)の、設置前と設置後を比較することを主要テーマとしている。1年目、2年目で「上海ゲットー」設置前(1930年代末~1943年)と、設置後の中でも戦後の1945年以降を調査し、詳細な事実を明らかにすることができたので、最終年度は1943年から1945年のユダヤ人の生活実態を考察することにしていた。 本来は2020年の3月頃、あるいは8月頃にアメリカ合衆国を訪れ、ワシントンの「米国国立公文書館 National Archives and Records Administration (NARA)」と、ニューヨークの「ユダヤ歴史センター Center for Jewish History」の資料調査を予定しており、そこで1943年~1945年までの上海ユダヤ人の生活状況を明らかにしようとしていた。しかしコロナ禍の状況もあり、この調査を断念せざるを得なくなった。 そのため本年度は、これまでの研究をもとにして、国内で手に入る資料などを駆使しながら、2020年9月にオンライン開催となった神戸・ユダヤ文化研究会の文化講座で、「戦時上海のユダヤ人を救ったのは日本だったのか」の題目で講演を行った。また研究成果として、2021年1月に、「『戦時上海のユダヤ避難民は日本が救出・保護した』のか――2000年代初頭に定着した言説の再考察」(『ナマール(港)25号』神戸・ユダヤ文化研究会)を公刊した。 アメリカ合衆国での調査がかなわなかったため、考察にまだ不十分な点もあるが、現在出来得る限りのものは提示できたと思う。
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