研究課題/領域番号 |
18K01013
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鷲尾 祐子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60642345)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 走馬楼呉簡 / 住民名簿 / 世帯 / 年齢 / 親族構成実態 / 地域統治 |
研究実績の概要 |
2020年度、本課題の中核的な史料である走馬楼呉簡「吏民簿」を用いる上での基礎的検討がほぼ完了した。典籍には全くみえず従来の出土文字史料にも例を見ない吏民簿を活用するためには、基礎的な性格の把握が必要である。また六年簿と四年簿に見える同一人物の年齢が一歳差など、不可解な現象の解明無しには年齢の資料として信がおけないことになる。 そこで、簿の構成が明かなものが多い「けい簿」を集成し、その特徴を抽出しつつ、吏民簿の三類型を把握し、その作成の前後関係を考察した。作成過程としては、最初に各類型のけい簿が里単位で作成され、この各種けい簿にもとづき、また前年の名簿も参照しつつ、一里50戸に里を編制しなおす作業がなされた。戸数調整に際しては、一里の徴発可能な戸の数や、賦を負担する戸の数ができるだけ均等になるよう配慮された。そしてこの過程で「徴発対象戸集計型」の簿が作成され里の編制が確定する。そして死者を除き、新生児を書き足して、作成時点の年齢の簿(「某年某里」で戸人簡がはじまる簿)が作成される。さらに賦を負担する戸のみを抜き出し、作成時点の年齢に一歳を足して、「人頭税負担者集計型」の簿が作成されたことが明らかになった。これらの成果によって、吏民簿各類型の特徴・目的・作成機関が明かになった。また記載年齢にずれが生じているのがなぜなのかを説明できるようになり、吏民簿を基礎的なデータとして分析する土台を構築することができた。なお、一里50戸の編制が可能になるのは、里がすでに地理的範疇ではないことによる。居住地・身元を表示するなど従来里が担っていた役割は、呉簡では丘に移管され、里は単なる負担割り当て単位と化していることを論証した(『東洋史研究会大会』2020年11月1日にて発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呉簡住民名簿の基礎的検討と、簿の集成はほぼ完成しつつある。2020年度の成果によって簿の世帯データとしての使用を阻害していた問題点は解消されつつある。コロナ蔓延の状況により、実物を観察する機会がもてなかったが、図版の精査によって補った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、最終年度にあたり、全体の成果をまとめる作業をおこなう。これまで吏民簿を用いる上で必要な認識を「構築する作業にあたってきた、吏民簿を各類型に分類し、おのおのの特徴を把握し、記載年齢の齟齬についての説明を確定することである。以上の基本的な資料批判は完成した。また2020年までに吏民簿の史料となる走馬楼呉簡竹簡の図版本は、全巻刊行され、史料全てを使用する条件も整った。各吏民簿の集成もだいたいめどがついている。次年度は、如上の成果をまとめつつ、家族(世帯)の史料としての利用を進める。(1)各吏民簿にみえる戸(世帯)を集成する。(2)吏民簿にみえる女性の婚姻年齢平均を算出しなおす。簿の特徴を踏まえて平均の相違について考察する。壮年女性がどのような親族と生活しているかを年代別に把握していく。(3)男性についても、その年代別に、どのような親族と同居しているか把握する。 そして、このような成果全体を、まとめあげる刊行物を準備したい。 これらの検討の過程で、実物を観察する必要が生ずる可能性がある。コロナ蔓延状況解決しなければ難しいが、所蔵している博物館(湖南省長沙)にて実物を見る機会を設けたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】新型コロナウィルス感染症が蔓延する状況のため、予定していた海外調査を実施することが不可能になった。代替として考えていた図版データベースの作成についても、雇用による人員の確保が困難になったため取り組むことができなくなった。 【使用計画】本年度は、ワクチン接種などによりコロナウィルス感染状況が好転する見込みがある。基礎史料である呉簡の図版では不明瞭な箇所を摘出しておき、本年度中に調査をおこない実物を確認する。また、雇用が可能になれば、図版データベースの作成も進める。
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備考 |
東京外国語大学アジアアフリカ研究所研究課題「中国古代簡牘の横断領域的研究」ホームページ
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