研究課題/領域番号 |
18K01015
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 真 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (60400610)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科挙 / 八旗 / 旗人 / 進士 / 士人化 |
研究実績の概要 |
本年度は,清朝の康煕~雍正年間(1662~1735)における旗人の科挙応試の実態の具体例から、いかなる出自の旗人が科挙に応試して合格し,その結果として当該旗人が官界においてどのような人的関係を構築したのか、またその官途にどのような影響を及ぼしたのかという点について分析を進めた。 同じ旗人進士であっても、上三旗・下五旗の相違があり、さらには満洲旗人・蒙古旗人・漢軍旗人の区別がある。また、零細な家柄出身の旗人進士だけではなく、権門とも称すべき有力氏族出身の旗人進士も確認できる。この事実は、旗人にとって科挙への応試が単なる身分の上昇や栄達上の利点をのみ期待したものではなく、かといって「漢化」とも単純に見なしうる現象ではなく、先行研究では「士人化」として捉えられている概念と共通していると考えられる。 ただし旗人が科挙に応試することによって、栄達速度の点において、それ以外の一般の旗人との間に差を生み出している事例が確認できることも確かである。康煕朝中期に科挙に合格した旗人進士のうち、特定の旗に所属する複数の旗人進士の官歴を分析すると、かれらの共通点として、父祖に高位の旗人をもつとともに、当時の宮廷の有力者との間に密接な関係があったことが確認できる。そしてその関係の起点は、当該旗人が科挙に合格し、翰林院に配されたことによって生じたと考えられる。これは明府(ミンジュ家)の人びとと他の旗人進士らとの人的関係を考察することによって確認し得たものであり、翰林院内で構築された人的関係が、宮廷内の権力構造にも少なからぬ影響を与えていたことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの康煕朝に続き、今年度は雍正朝までの旗人進士を対象として、かれらの出自比定・官歴の追跡作業を継続した。これらについてはおおむね終了し、入手したデータから旗人進士の栄達速度や官歴の傾向を抽出し、旗人にとって科挙応試がどのような意味をもっていたのか、当該時期の宮廷政治史とどのような関係がみられるのか、という問題の分析を進めている。 その一方で、乾隆朝のデータについても収集は遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に刊行が予定されており、旗人に関するデータが豊富に含まれていると考えられる『八旗文献集成(第三輯)』の刊行を待ち、これまでの史料調査で得られたデータを補強する。 また、そのような旗人進士の各種データから朝代ごとの傾向を抽出し、清朝前半期において旗人の科挙応試がもつ意味を、当時の宮廷政治史・八旗内の権力構造という視点と、旗人の「士人化」という概念とを結びつけて説明する。 最終的には、長期にわたって漢人社会の伝統的な地位を占めてきた科挙が、満洲人王朝である清朝にとってどのような意味をもっていたのかという点についても、あらためて見通しを示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は以下の通りである。すなわち、新型コロナウィルスの影響により、国内の研究機関・図書館等における史料調査ができなかったこと。またもう一つには、八旗関係の大型史料集である『八旗文献集成(第三輯)』(全30冊、遼海出版社、予価412,500)の発売がさらに延期され、年度内の購入が叶わなかったことである。
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