研究課題/領域番号 |
18K01020
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野村 啓介 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (00305103)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フランス第二帝制 / フランス外交 / 日仏外交史 / 外交代表 / 異文化経験 / Duchesne de Bellecourt / Léon Roches |
研究実績の概要 |
本研究は、第二帝制期フランス外交による極東接近の初期局面における異文化経験に関して、これまで過小評価されがちであった外交代表機能にアプローチするものである。平成31(令和元)年度は、フランス外交当局の極東戦略の形成・変容に対する外交代表機能の寄与(ないし影響度合い)を実証的に明らかにする一環として、日本という異文化と直接的に対峙したフランス外交代表による日本理解のありかたを考察するという昨年度中に開始した作業を本格化した。分析対象とした主な史料は、外交代表による本国宛報告書である。 任地の外交代表には、遠くは16世紀末の宣教師、近い時代ではケンペル、シーボルトなどによる日本に関する従来の詳細な著述と現実とのギャップを埋めるための知的努力が求められたといえる。昨年度から継続して、外交代表の日本理解に付随して、異言語を自国語へと変換する通訳・翻訳の問題がいかにして解決されたかという問題にとりくむために、(1)事例分析として天皇と将軍に対する訳語、すなわちフランス側における日本の国家主権者に関する理解状況を精査し、「皇帝 empereur (emperor)」という訳語が最終的に天皇を意味するようになる経緯を検討した。(2)外交代表による天皇・将軍関係の理解状況をめぐる諸問題を検討した。 以上の課題にとりくんだのち、外国人殺傷事件が多発する困難な環境下にあって、そうした知的営為がいかにして可能となったのかという、日本理解形成の側面について考えてみたい。いいかえれば、それは外交代表による情報収集のありかたやそれをとりまく環境、条件等に注目することであり、収集された情報が外交代表によってどのように解釈されたかという問題である。この課題は、本国政府の外交制度に関する検討とあわせて今後の作業により深めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理想どおりとはいかずとも、ほぼ予定どおりの史料収集ができたため、進行上の障害はなかった。ただし、最初の2年間では外交の制度的な側面をあつかう予定であったものの、収集した史料には、外交代表の日本観を析出するのに適した外交文書が予想外に多かったため、当初の分析課題の順序を変更して、後半の2年間で着手するつもりであった「外交代表機能と異文化経験」の側面にシフトし、史料分析を進めた。また、成果の一部は論文としてまとめているところであり、所属部局で開講された一般市民対象の公開講座の内容としても盛り込むことができた〔講座タイトル「フランス外交と幕末日本―フランス外交官たちのみた「日出ずる国L'Empire du Soleil-Levant」―」2019年11月9日、東北大学〕。 なお、フランス本国において今年度中に刊行される予定であった日仏国交160周年記念論文を特集する書籍は、編集上の事情により来年度に延期された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度および今年度の研究を補完するため、来年度からは本国の外交制度の側面を検討することにも力を入れる予定である。これにより、本国政府にとっての極東外交の位置づけ、外交代表のいかなる言動部分が本国の政策決定に寄与し、あるいは寄与しなかったのかといった問題にとりくむための予備的考察が可能になるものと期待される。くわえて、外交代表に関する史料の調査・収集を継続するとともに、史料分析をよりいっそう前進・深化させたい。なお、H30年度に機動的に変更した分析課題の着手順序はそのまま維持することとし、当初計画で前半2年間で実施する予定であった「外交代表の制度的基盤」に関する検討に関して、残りの2年間のうちに一定の成果をあげることをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は80万円の予算であったが、書籍類の購入代金のほか、外国出張において予定よりも宿泊費がかさみ、必要最低限の史料収集にとどめた。また、予期せぬ新型コロナウィルス感染症の蔓延により、3月に予定していた調査旅行が自粛・中止となり、若干の金額(約7万円)が未使用のままである。くわえて、R2年度予算が70万円と使用可能な研究費がやや物足りなくなるため、R3年度使用分からの前倒し分とも合わせることにより本年度とほぼ同規模の史料収集が可能になるものと予想している。
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