研究課題
本研究の目的は,対日外交とその外交代表機能の事例研究をつうじて,第二帝制期フランス外交による極東接近における異文化経験の側面にアプローチすることである。令和3年度においては,前年度と同様に計画どおりの研究推進が妨げられ,フランス本国での資料収集を断念したため,国内で入手可能な資料の収集・読解に専念した。すなわち,フランスの極東戦略の形成・変容に対する外交代表機能の寄与(ないし影響度合い)を実証的に明らかにする一環として,フランス外交当局による日本理解に影響をあたえたと考えられる側面に迫るための作業を継続した。すなわち,前々年度までに進めた作業(=外交代表の本国宛報告書を主な史料として,異文化(日本)と直接的に対峙した外交代表の日本国制観,天皇・将軍観を探る)を別の角度から捉え返すことができるのではないかと期待して,16世紀のイエズス会宣教師から19世紀のシーボルトにいたる日本記述を徹底的に洗い直す作業を構想し,一部着手した。具体的には,イエズス会宣教師の書簡集をひもとき,とりわけフロイス書簡(ラテン語版,葡語版)の読解を着実に進めた。フロイス書簡には,日本国制の理解様式として,京のミカドを「皇帝imperator (empereur / emperor)」ととらえる思考法はまだみられず,武家権力たる地方大名を「王rex (roi / king)」と呼ぶのが一般的であり,ヨーロッパの諸王と同列にみていた実態が浮かびあがった。これは,幕末の欧米列強が武家の棟梁たる徳川将軍を日本全体の政治的代表者とみなした思考法との連続性を予想させる。もちろん,欧米側に固有の「皇帝」・「王」観念をその内実においてより詳細に検討するという課題は,依然として残された課題のままであるが,今後の研究の深化にとって無視できない側面であろう。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Francois Lachaud et Martin Nogeira Ramos (ed.), D'un empire, l'autre : premieres rencontres entre la France et le Japon XIXe siecle
巻: 1 ページ: 169-199