今年度は、8月に1週間フランスで現地調査を行った。モゼール県文書館とムルト=エ=モゼル県文書館において、兵士の犯罪に関する警察・司法文書とくに脱走に関連する記録、また、民兵の招集に関する地方長官文書を閲覧した。2024年2月には、近世の異性装に関する研究のなかで女性兵士の存在に光をあてたことで有名なシルヴィ・スタインベルグ教授(社会科学高等研究院)を日本に招聘し、日仏会館にて講演(題目「武器を手にした女たち」)をしていただいた。講演会では、研究分担者である高澤紀恵がコメンテーターとして登壇し、研究協力者である佐々木真氏と正本忍氏をはじめ多くの参加者があり、議論も活発であった。日本ではこれまで十分に研究の紹介がなされていなかっただけに貴重な機会となった。フランス近世を専門とする高澤は、日本近世を専門とするギヨーム・カレとともに編著『「身分」を交差させる 近世の日本とフランス』(東京大学出版会)を上梓した。芹生は同著において、研究成果(「啓蒙の世紀と軍事改革―想像/創造された兵士たち」 )を公表する機会を得た。研究期間を通じて、近世軍事史のフランスやアメリカにおける成果がまだ日本には十分に紹介されていないこと、また、これらの先行研究にもかかわらず多くの研究の余地が残されていることが同時に確認された。コロナ禍によって予定されていたアメリカ人研究者の招聘またフランスにおけるシンポジウムの機会を逸してしまったが、日本とフランスまたアメリカの近世研究のネットワークを形成することに多かれ少なけれ成功したように思われる。研究成果のアウトプットについては、近世から近代の移行期といってよい改革期の軍隊の諸側面について一定の成果を収めることができたと思われる。今後、さらに研究の深化に努めることができるような展望を見出すことができた。
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