研究課題/領域番号 |
18K01026
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
大清水 裕 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (70631571)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 北アフリカ / ヘレニズム / ローマ / カルタゴ / ヌミディア |
研究実績の概要 |
今年度は、研究計画のとおり、まずはヌミディア王国の形成期におけるヘレニズム世界との関わりについて研究を進めた。 第2次ポエニ戦争の結果、敗北したカルタゴはその支配地を現在のチュニジア北東部の一角に削減され、ローマへの賠償金支払いを課されるとともに、軍備も制限された。他方、ローマ軍の勝利に貢献したマシニッサは、ローマ元老院によってヌミディア人の王と認められ、カルタゴに代わって北アフリカで勢力を拡大した。マシニッサは、残されたカルタゴ領にたびたび侵入し、それに悩まされたカルタゴはローマの元老院に救済を求めた。しかし、元老院はその訴えを放置し、カルタゴがヌミディア王国に自力で対抗したところを条約違反であるとして宣戦を布告し、前146年、カルタゴを最終的に滅ぼした。以上が良く知られたカルタゴ滅亡に至るストーリーである。ここでは、ヌミディア王国、及びその王マシニッサは、支配の拡大を志向するローマの走狗にすぎなかったとみなされやすい。 しかし、関連する同時代史料を精査していくと、ローマとヌミディアの利害がどれほど一致していたのか疑問が残る。また、第2次ポエニ戦争終結からカルタゴ滅亡に至る時期は、ローマがヘレニズム世界への進出を活発化させていた時期でもある。本研究では、ヌミディア王国とヘレニズム世界との関係を史料に基づいて再構成していくことで、ヌミディア王国、とりわけマシニッサ王のヘレニズム世界への関心を明らかにすることができつつあると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既述のとおり、今年度は、研究計画に沿って、ヌミディア王国の形成とヘレニズム世界との関わりについて研究を進めた。関連史料や先行研究については概ね入手できており、先行研究の成果を整理しつつ、関連史料の分析を進めている。現地調査も実施し、必ずしも予定通りの遺跡調査ができたわけではなかったものの、別の関連遺跡や考古学博物館での調査を通して予期せぬ知見を得ることもできた。詳細については論文の執筆を進めており、できるだけ速やかに成果を公にできるよう努めたい。 また、上記の研究成果の一部は、本年度刊行された「ローマ帝政期北アフリカにおける軍隊と社会――ハドリアヌス帝の演説を中心に」(『軍事史学』54(2))にも活かされている。ヌミディア王国やマウレタニア王国の滅亡後、北アフリカの多くの地域がローマの直接支配下に置かれたが、その社会にはかつてのヌミディア王国やマウレタニア王国時代の影響が少なからず残されていたと考えられる。本研究の成果は、後代の史料解釈に際しても有意義であることが確認できた。 以上のように、今年度は概ね計画に沿って研究を遂行するとともに、その成果の一部を公にすることもできた。よって、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進展については、まず1年目の研究成果を速やかに公にすることを目指したい。論文の執筆を進めているところであり、残る問題点の解消に努めたい。 また、研究計画では、2年目にはマウレタニア王国の性格を検討することとしていたが、1年目の研究の進展によりヌミディア王国について新たな視点を得ることができた。そのため、マウレタニア王国の性格の検討と並行して、ヌミディア王国の終末期、とくにローマ共和政末期の内戦とヌミディア王国のかかわりについて検討を進めたいと考えている。カエサルによるヌミディア王国の廃絶とアウグストゥスによるマウレタニア王国の建設は密接に関わる問題であり、関連史料及び先行研究の収集・分析を進めていきたい。また、それに伴って必要となるであろう現地調査についても、適宜実施していきたいと考えている。
|