本科研の最終年度と当初想定していた前年度と同様に、新型コロナウィルス感染症の流行のため、海外での現地調査は見送らざるを得なかった。しかし、同感染症の流行前に行った現地調査で得られた知見を再検討し、関連する文献史料の再読を進めることで、計画していたローマ帝政期のマウレタニア王国におけるヘレニズム文化の影響とその王権のあり方について、独自の見通しを示すことができた。その成果は、「マウレタニア王プトレマイオスの死とローマ皇帝カリグラ:北アフリカにおけるローマ支配の進展とマウレタニア王国の属州化」『地中海学研究』44 、2021年、5-30頁として公表されている。 また、本科研で最初に取り組んだテーマであるヌミディア王マシニッサとヘレニズム世界の関係についての論文も、「デロス島出土碑文におけるヌミディア王マシニッサ:ヘレニズム世界から見た前2世紀の北アフリカ」『西洋史学』271、2021年、22-42頁として刊行された。 さらに、当初想定していたこれらのテーマに加えて、マウレタニア王国支配がその後の北アフリカ社会に与えた影響についても発展的に研究を進めた。その成果の一部は、7月に、第7回前近代におけるメディアとコミュニケーション研究会で「ローマ帝政期北アフリカの水道建設に見るコミュニケーションとメディア」として発表したほか、ジェラール・クーロン/ジャン=クロード・ゴルヴァン著『古代ローマ軍の土木技術』(マール社、2022年)の翻訳という形でも活かされている。 新型コロナウィルス感染症の流行により、当初計画していた海外での現地調査は実現できなかったものの、想定以上の結果を残すことができたものと考える。
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