研究課題/領域番号 |
18K01028
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南川 高志 京都大学, 文学研究科, 教授 (40174099)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ローマ帝国 / ローマ化 / 帝国統合 / グローバル化 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究の第2年目にあたる2019年度は、前年度の活動を受けて、ローマ考古学者たちの議論の検証をさらに進めた。ローマ考古学者が主導する議論を1990年代から現在に至るまで詳細に検討し、その議論の射程と問題点とを明らかにする作業である。 昨年度の研究活動において、外国での研究・調査の内容を第1年度目の分と第2年度目の分を入れ替えたため、2019年度は第1年目の課題としていたイギリスにおける研究・調査を実施した。とくに、「ローマ化」概念論争に始まり「グローバル化」論をめぐる議論まで、ローマ考古学者たちの活動の中心にいるダラム大学R・ヒングリ教授に面会して、意見交換できたことは、本研究にとってきわめて有意義であった。批判的・革新的な研究を推し進めている同教授の方法上の立場や今後の研究の見通しを直接聞くことができ、私自身の考え方も説明できたのである。この意見交換の成果の一端は、『西洋古代史研究』19号誌上で、エッセイ風ではあるが明らかにした。また、ケンブリッジ大学で資料調査するとともに、同大学講師のJ・ヴァイスヴァイラー博士と意見交換できたことも成果であった。 帝国による国家統合の問題については、属州統治のシステムと帝国内のコミュニケーションのあり方が重要な論点になるため、さらに研究文献を収集して読解に努め、研究動向の把握を進めた。上記のケンブリッジ大学講師ヴァイスヴァイラー博士との意見交換でも、同博士の専門がまさにこの論点であるので、有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
考古学者のローマ帝国の意義をめぐる批判的見解の検証と、ローマ帝国の国家統合をめぐる歴史的意義の検討、これらが本研究の課題であるが、2019年度は特に前者において大きな進展が見られたと考えている。まず、イギリスにおける研究・調査において、ローマ考古学者たちの活動の中心にいるR・ヒングリ教授にダラム大学で面会し、意見交換できたことは、本研究にとって有意義であり、今後の研究の大きな弾みともなった。次いで、ヒングリ教授から得た情報にも助けられ、研究文献の収集を通じて、最近の研究動向を把握する作業を進めることができた。 後者の課題、ローマ帝国の国家統合をめぐる歴史的意義の検討については、研究文献の批判的検討を通じて進めたが、ハーヴァード大学教授E・デンチ博士の一連の研究に学ぶところが大きく、同博士の最近著を2020年度に大学の西洋史学演習のテキストとしても取り上げて、さらに深く検討する予定である。後期ローマ帝国の統治階層と国家統合を研究するケンブリッジ大学講師ヴァイスヴァイラー博士との意見交換も、有益であった。 本研究は、第2年度もおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第3年目にあたる2020年度は、ローマ帝国の国家統合に果たした意義を、帝国社会の変容に関する研究を組み込んで検討することが主たる課題になる。検討対象である時期のローマ帝国は、現在のヨーロッパから北アフリカ、中東地域にも領土が及んでいた。そのため、研究のテーマについても、帝国西半地域についてはいわゆる「ローマ化」が推進された属州の都市の機能と帝国政府との関係、東半地域については、ヘレニズム時代以来の都市がローマ帝国政府とどのように連絡を取り、都市が自らを帝国に適応させていったのかを検討することになる。2020年度は、最初の計画では、文献による研究とともに、ドイツの西部・南部地域に残るリメス(境界)遺跡や属州都市遺跡を調査し、史資料の調査も継続することにしている。 ただ、新型コロナウイルスによる感染症の拡大のため、4月現在、ヨーロッパには調査に入れない状態になっている。今後の状況のあり方を見て判断し、海外調査を断念して、もっぱら文献とオンラインによる作業に変更する可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国での調査研究の計画を、昨年度第1年目の分と第2年度目の分とを入れ替えたため、また部局長の用務のために調査期間が限られたため、調査旅費の使用と文献収集のあり方に変更が生じた。そのために、次年度使用額が発生した。第3年度と第4年度の研究計画の調整で修正をおこなう予定である。
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