研究課題/領域番号 |
18K01030
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小山 啓子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (60380698)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 16世紀フランス / リヨン / 移民 / 都市空間 / 外国人 / 同郷団 / 帰化状 |
研究実績の概要 |
2018年度はまず、8月末にローマ第3大学で開催された国際都市史学会the 14th International Conference on Urban HistoryのSession M08: Immigrants and refugees in Western European Citiesで、口頭発表"Les immigrants et l’espace urbain de Lyon au XVIe siecle"を行った。その概要は以下の通りである。リヨンはルイ11世から年4回の大市開催権を認められて以降、イタリア、ドイツ、フランドル、スペインからの商人や金融業者が集まり、商取引および為替・銀行業務の決済が行われる国際商業都市となっていた。1597年に行われた住民調査の記録を精査したO. Zellerの論文によれば、その時点でリヨンに居住している人たちの出身地は1,326か所に及び、リヨン生まれが判明しているのは全体のわずか22パーセントであったとされ、この数値を信頼するならば、人の移入が日常的なものであったことを伺わせる。リヨンの外国人はいわゆる居留地のような外国人街を形成することなく、その中心地および周辺に混在して居住した。この時どのような都市空間の変化が生じたのか。リヨンはいわゆる「他者」を受け入れる新しい事態に直面していたわけであるが、外来者は実際どのようにこの都市の中心部に入り込み、都市における定住と移出とを選択していくのか。史料としてはリヨンの都市議事録などを主に用いた本発表は、2019年1月に雑誌Histoire Urbaineに投稿し、審査結果を待っているところである。 上記の研究以外に、本年度は本研究に関わりのある書評1本、概説書の分担執筆1本、コラム1本を執筆・提出し、いずれも掲載を待っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年5月に共著の刊行、(「人が人を支配するときなにが求められたのか」と題する論文を担当)、8月に国際都市史学会での発表(ローマ)、国際雑誌論文への投稿(2019年1月)、その他書評、概説書など多様なレベルの論考を発表、刊行することができた。掲載待ちのものもあるが、予定していたすべての原稿を提出することはできた。ただ、本年度はアウトプットを中心に進めたので、史料の収集、読解という点ではそれほど作業を大きく進展させることができなかった。この点は次年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
都市議事録を分析するにあたり、この文書の責任者であり作成者である都市エリートの役割と都市アーカイヴズの成立・発展について検討する。都市議事録は行われた審議内容がそのまま記載されたのではなく、市参事会員の指示を尊重したものであり、それゆえ彼らの心性と文化的実践とが表れているのである。ここでは従来の都市史で十分に考察されてこなかった、都市における文書作成の担い手である書記の活動と、都市議事録の史料論を結び付けて考察したい。 また、都市議事録は国家の記録でもあるという側面を持つため、都市を国制のなかに位置づけつつ、その国制全体をヨーロッパの枠組みの中で比較史的に取り上げるシンポジウムで報告することを予定している。この報告では単なる地域史的文脈ではなく議論を開く必要があるが、そのことにより、地域の議事録に取り組む際の視点やその分析の可能性も大きく広がってくるものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年8月にローマ第3大学で開催された国際学会で研究発表を行った際に、当初はこの機会を利用してフランスの文書館も訪れ、史料調査・収集、研究打ち合わせを行う予定であったが、家庭の事情で長期の海外出張ができなかった。このことについては、リヨン第2大学の研究者とメール等でできる研究打ち合わせを行った。 また、2020年度に中期程度のフランス(リヨン)での史料調査・収集を計画しており、現在はそれに向けての準備を行っている。
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