研究課題/領域番号 |
18K01041
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
光田 達矢 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (90549841)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本 / ドイツ / 家畜衛生 / 家畜貿易 / 食肉 / 比較史 |
研究実績の概要 |
近年、アジアを中心に食肉消費が飛躍的に伸びているため、生産・安全・生活への影響を心配する声が強まっている。世界的に拡大する畜産業が及ぼす環境破壊、抗生物質の乱用による家畜感染症リスクの向上、過度な動物性食品摂取による健康被害など、「肉食化」がもたらす「弊害」が露わになっている。本研究は、肉食化が生産・安全・生活にどのような反作用をもたらしたのかを問い直すことを出発点とし、ドイツと日本の対照的な過去を分析することで世界的に議論されている肉食化問題に、比較史学的な視点を提供することを目的とする。
当該年度は、本務校の夏休みを利用して3週間にわたる研究調査をベルリンで実施した。昨年度は、国際家畜貿易が拡大する中、鉄道の発達とともに家畜防疫体制がどのようにして1850年代から1880年代にかけて発達したのかという問題意識に基づき、公文書館での資料調査を行った。当該年度は、ドイツ連邦公文書館を訪れ、1890年から1920年の家畜貿易と家畜防疫に関する行政資料を発掘した。国家と科学による介入が本格化し、実際、家畜の身体へ直接介入するような事態へと発展していった状況を把握できた。その後、パリに足を運び、ヨーロッパ農村史学会で研究仲間と意見交換することができた。
日本に関しては、ドイツと日本統治下の青島において、山東牛がどのような過程を経て牛肉として、日本をはじめ外国に輸出されるに至ったのかを細かく分析した。その成果の一部を香港大学主催の学会とサンフランシスコ大学主催の学会で発表した。サンフランシスコ大学アジア太平洋研究所の学術誌にも論文を投稿した。査読を経て、受理された。また、日本における菜食主義の歴史を考察した論文もBloomsburyより出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は、日本における肉食化の研究が進み、ドイツにおける肉食化の研究が停滞した。後者に関しては、ドイツにおける家畜貿易体制の発展を、中央のみならず、周縁とヨーロッパ諸国の状況と絡めて研究を進める必要が出てきたことに一因がある。このように当初予期できなった状況を受け、中央公文書館のみならず、急遽、地方の公文書館にも足を運ばなくてはならない。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの拡大に伴い、2020年4月に予定されていた香港大学の研究グループとの研究会、同7月に予定されていたメルボルン大学主催の学会が相次ぎ延期・中止された。2020年3月には、国会図書館に加え大学図書館も閉鎖され、研究の生命線である一次資料の発掘がままならない。また、夏休みに計画しているドイツへの調査旅行を中止せざるを得ない状況にあり、今後の研究の進展に不安が残る。国外学会や公文書館の訪問を伴う出張が実施できない可能性が高く、当面の間、日本に留まりヨーロッパから出版資料を取り寄せることになりそうである。その出版資料に基づき行える研究に切り替える。その間、日本に関する研究をある程度完成させ、状況が落ち着き次第、ドイツへの調査旅行を実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、ドイツへの国外出張を2回予定していたが、1回に留まった。また、香港大学主催の学会、サンフランシスコ大学主催の学会への出張費は、主催者側が負担したため、次年度使用額が生じた。新型コロナウイルス拡大の影響次第だが、今年度は、ヨーロッパへの長期出張を実施する。
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