本研究の目的は、エストニア、スペイン、モルドヴァを対象として、権力分有の捉えられ方と実践の歴史的変遷を明らかにすることを通じてヨーロッパ史の見直しを試みることにある。それは歴史の単位として国家を措定しつつも現存する国民史と国民史の総体としてのヨーロッパ史に回収されない補完的な歴史の提案である。 本来であれば、2020年度を最終年度とする予定であったが、新型コロナウィルスの感染症拡大の影響で、最終年度に予定していた現地調査や現地での意見交換を2年半以上にわたって実施することができなかった。そのために研究期間を延長し、2022年度を最終年度として研究を実施した。具体的には、2023年3月に、当初の研究計画において計画した通り、バルセロナ(カタルーニャ)での現地調査と関連各所での意見交換を実施し、研究全体の取りまとめを行うことができた。 上記の現地調査を踏まえた本年単年度の成果としては、ネイション認識の非対称性と、その土台となり、他方でそれに起因する主権をめぐる争い(言説上も実際上も)が、いわゆる「西」ヨーロッパでも継起的に生じていること、またそれに関する外部の理解が、「西」ヨーロッパであるがゆえに認識バイアスを生じている可能背があることが理解できたことを挙げておきたい。 研究期間全体を通じての研究成果としてここで挙げるべきは、研究目的の中で設定した「権力分有」という概念の精緻化(「主権」と「Nation/Poeple」理解の関係性、特にそれをめぐる競合関係)により、ヨーロッパ史理解の観点とその叙述について地平の広がりを得たことであろう。そもそも本研究は、従来のヨーロッパ史叙述の文脈では周辺に位置づけられてきた国や地域を扱うことで「ヨーロッパ」の史的理解の再検討を試みるものであったが、ここで提案する歴史学的方法論を利用した実際の叙述は今後の課題となった。
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