研究課題/領域番号 |
18K01053
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朝治 啓三 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70151024)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グロステスト / 司牧 / 教皇イノセント4世 / 司教巡察 / 教会法 / イングランド国制 / シモン・ド・モンフォール / ヘンリ3世 |
研究実績の概要 |
2020年度には当該テーマに関する研究発表1と、論文公刊2の成果があった。9月に「1264、65年シモン・ド・モンフォールのパーラメント」と題して佛教大学で講演した。(コロナ禍によりリモートで)シモンの国制改革計画が、グロステストの神学に基づいているという最近のAmbler説へのコメントを含めて発言した。論文の一つ「1264,65年シモン・ド・モンフォールのパーラメント再考」(『関西大学東西学術研究所紀要』54輯)はこの講演の内容をやや詳しく論じたもので、1265年のパーラメントでの国制決定の際には、州代表の騎士や都市代表の市民は参加していなかったことを証明した。この事実認識を踏まえて、1264,65年の「シモンの議会」は、教科書で唱えられているような「庶民院の起源」ではないと結論した。 もう一つの論文は「1250年リヨンにおけるグロステストとイノセント4世」(『関西大学文学論集』70-4、2021年3月、47-78頁)であり、グロステストが2度目のリヨン教皇庁登場の際に発言した7つの論文の内容を分析した。グロステストがシモンに見せたかもしれないと、Bemontによって紹介された史料である、グロステスト自身が書いた「王政と僭主政」論文をやや精密に分析した。その結果、グロステストの論文はカンタベリ大司教が管区巡察の際に過剰な接待費を取り立てていることを非難する内容であり、世俗国制への批判ではないことを証明した。我が国では先行研究が無く、また歴史研究者による史料分析も本稿が初めてである。 2021年度はコロナ禍のため、計画していた海外渡航が不可能となり、その分の研究費を消費しきれず、次年度へ順延する手続きを取った。コロナ禍が2022年度に解決すれば、渡米または渡英して文書にあたりつつ、論文の仕上げと口頭発表を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに渡英して現地文書館で転写し得ていた史料を利用してできる範囲で、本年度は論文を作成した。1250年のグロステストのリヨン行きについての論文は、当初の研究計画の中核をなすテーマであり、本年度は口頭発表し論文を執筆し得たという意味で、順調に進んでいるといえる。 2020年度4月研究開始直後にコロナウィルスによる緊急事態宣言が発出され、その結果国内、海外とも旅行が事実上不可能となった。そのため、アメリカの学会で研究成果を発表する予定の変更を余儀なくされ、国内学会での発表に焦点を絞って論点を若干変更した。研究準備のための東京の諸大学図書館への資料調査も、図書館が学外者に対して閉館されたため実施困難となり、かろうじて図書館を通じての資料コピーのみが許されるにとどまった。研究の最終年度に当たるため、司教のカトリック神学に基づく国制観が、実際の世俗国王や諸侯が築いた国制と、どのような関係にあるかを調査する資料が必要であったが、それらの入手は限定的となった。 購入可能な書籍を入手し、上記のコピー類と合わせて用いて、限定的な論点について原稿を書き、口頭発表し、論文を作成した。口頭発表は9月に佛教大学での講演に招待されたので、その趣旨に添うように一般聴衆向けに作成した内容でリモートで講演した。普段その学会の参加者は30人程度であったと聞くが、私の発表時の聴衆は120名を超えていた。 国際学会での報告の機会を失ったので、アメリカ太平洋側の諸大学が設立した環太平洋中世学会のZoomによる学会に参加した。今回は共通テーマでのセッションはなく、若手による短時間のメッセージ程度の発表のみで構成されていた。しかし欧米での研究関心がどこに向かっているかを知るには、リモート参加でも有効であった。研究費の次年度への使用延長が認められたので、2021年度に研究成果を発表できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果を英文に翻訳し、国際学会で発表する予定であるが、コロナ禍のために外国への旅行が不可能になる可能性もあり、現時点では国際学会出席は未定である。その代わりに英文で英文雑誌に投稿するつもりである。 グロステストが自らのカトリック神学に基づく世俗国制観について、1250年当時リヨンにいた教皇イノセント4世と論争したが、そこで発表された意見がその後、彼の秘書役の聖職者によって教皇庁へと送られ、その写本は英国図書館に保存されて今日まで伝わっている。かなりの分量があるが、これを翻訳し、分析することが本研究の主たる目的である。その文書のうちの一つを、グロステストがシモン・ド・モンフォールに読ませたとの年代記の記述があるので、この資料の分析は神学と世俗国制の接点を同定し得るであろう。 そのほかグロステストやアダム・マーシュが、シモン・ド・モンフォールや国王ヘンリ3世に送った書簡も公刊されており、これらを使用して、1250年前後の時期のイングランド国制が、カトリック神学からどのような影響を受けていたのかを解明できるであろう。従来の教科書的説明では、諸侯と国王の武力衝突や、世俗的政治理論、あるいは、領地や利権をめぐる経済闘争として描かれてきたバロンの反乱(1258ー65年)は、13世紀半ばの神学に基づく国制観を背景に形成されていたことを証明し得るであろう。 英文雑誌への投稿を編集者には既に伝えてあり、予定通り進める。コロナ騒ぎが収まれば国際学会が開催され、そこに参加して発表することができるであろう。 当初から研究費の大半を国内と外国への旅費に充てる予定であり、2021年度への使用延長を申請し認められているので、予定通り行う。英文原稿の校閲費も計上を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者自身の研究状況には全く問題はないが、コロナ禍のために、移動を制限されたことが、年度内に予算を使用しきれなかった主たる理由である。 2020年度が最終年度であったが、コロナ禍のため、海外渡航が事実上禁止されてしまい、史料取集が出来なくなった。さらに予定していた国際学会での研究発表も、その学会自体が中止されてしまったため、発表の場を失った。2021年度への使用延期の手続きを取り、許可されたので、海外渡航が許可された時点での渡航と、国際学会での発表を予定している。また英文原稿の校閲費も同上の理由により、2021年度の使用に回される。 旅費のうち国内旅費も、主として東京の大学(上智大学、東京大学、慶應義塾大学など)への出張を予定していたが、緊急事態宣言の発出により、県境越えの移動が難しくなり、出張し得なくなった。一部の資料を、図書館を通してコピーを入手する形で謁読し得たが、不十分であり、2021年度に旅行が可能になった時点で予算を使用する予定である。
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