研究課題を計画通りに達成し、予算をすべて消化して、研究を完了できた。研究課題「司教と王国―リンカン司教ロバート・グロステストの司牧と13世紀イングランド国制」の研究目的は、教科書的見解「司教グロステストが、レスタ伯シモン・ド・モンフォールの思想に影響を与えて、彼の国制改革運動の思想的教唆者となった」という説の真偽を判断し、もし影響があれば、その内容を確定するという作業を通じて、聖界と俗界が13世紀イングランド国制において果たした歴史的役割を解明するものである。 2018年秋にロンドン大学のカーペンタ―教授を招聘して助言を受け、この研究計画が国際的評価に値すると確認された。以後研究計画通りにグロステストの教会改革思想を解明する論文を複数公にし、その中に国制改革を促す神学思想が存在するか否かを調査した。グロステストの書簡やリヨンの教皇庁でイノセント4世宛に行った演説を分析した結果、司教が自身の神学的国制観を国王に押し付けたとの証拠は確認し得ない。グロステストの弟子アダム・マーシュからシモンへの国制的改革構想の伝達は、書簡に読める事実としては確認し得ない。 一方、別論文で、グロステストの教会改革は、聖俗諸勢力が西欧カトリック世界の思想的一体化を目指す1215年ラテラン公会議決定をイングランドに導入する意図を持っており、その実現のためにイングランド全体の教会会議で、国王や諸侯など世俗権力者への王国統治に関する聖界リーダーとしての働きかけを行っており、個人的政治思想としてではなく、カトリック教会全体の世界観に基づく主張であったことを確認した。シモンの国制改革を指導したというよりも、イングランド国制における高位聖職者や教会の役割を果たしたと結論できる。 2022年度には司教による修道院巡察の史料解読の論文と、アダム・マーシュ書簡分析からグロステスト神学を解明する論文とを公表した。
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