研究課題/領域番号 |
18K01054
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
西岡 健司 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (70580439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中世スコットランド / 教皇特任裁判官 / 紛争解決 |
研究実績の概要 |
本年度は、158件の教皇特任裁判に関して、係争当事者・係争対象・特任裁判官の情報を収集・整理し、三者の関係性について分析をおこなった。とくに、通常の司教による教会裁判とは異なる点として、教皇特任裁判が司教区の枠組みを超えた広域的な人的交流の機会を生み出していた実態について、重点的に検証をおこなった。具体的には、係争当事者・係争対象・特任裁判官が所在する司教区を種々の史料から可能な限り特定し、三者の地域的な対応関係について分析した。以下では、数量的な分析結果の概要のみを記す。総合的な分析結果については、論文集の一編として公刊する予定である。 (1)特任裁判官(通例3名か2名)と係争対象との関係について、両者が所在する司教区が完全に一致する事例は、所在が判明する限りにおいて、全体の2割弱にすぎず、係争対象と同一司教区の特任裁判官を1名も含まない事例が半数を超える。 (2)特任裁判官と係争当事者との関係については複雑であるが、ここでは当事者双方が同一の司教区に属す聖界人に限った場合について述べると、特任裁判官全員も同じ司教区に属す事例は4分の1程度に過ぎず、逆に特任裁判官全員が当事者とは異なる司教区に属す事例が4割を超える。 (3)特任裁判官相互の関係については、3名一組の裁判の場合に、3名とも同一司教区に属す事例は6割弱であり、3名とも異なる司教区の事例が1割弱である。2名一組の場合では、両者が異なる司教区に属す事例が約4割5分である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度に予定していた2度のイギリスでの調査のうち、年度末の渡英がコロナウィルスの影響によって中止を余儀なくされたため、未刊行史料の調査が予定通りに進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの2年間においては、教皇特任裁判に関する基本的な情報の収集と整理をおこなったうえで、同裁判が創出した広域的な人的交流についての概要の把握につとめた。これからの後半の2年間では、個々の裁判事例に関わった人物についての具体的かつ詳細な分析を進めていく。これまでの調査で、教皇特任裁判が司教区の枠組みを超えた遠隔地の人々に接触の機会を頻繁に提供していたことは判明しているが、そうした機会が生み出される背後にはどういった既存の人間関係が存在していたのか、あるいは、裁判をきっかけとして生じた関係性が、その後どういった人間関係に繋がっていったのか、広域的な人的ネットワークが編み上げられていくプロセスについて、具体的に検討していく。 裁判に関わった人物の情報を可能な限り収集するには、未刊行史料の調査も必要であるが、コロナウィルスの状況次第では、イギリスでの調査が限られることも想定される。その場合には、代替手段として、史料を厳選してデジタル複写を依頼することも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により、年度末に予定していたイギリスでの史料調査を中止せざるを得なくなったため、その分の旅費を大幅に繰り越す結果となった。 次年度以降に海外調査を実施する予定であるが、コロナウイルスの状況次第では、代替手段として、史料を厳選の上で文書館にデジタル複写を依頼することも検討する。
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