研究課題/領域番号 |
18K01054
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
西岡 健司 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (70580439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中世スコットランド / 教皇特任裁判 / 紛争解決 |
研究実績の概要 |
本年度は、教皇特任裁判の個々の事例に関して、実際の紛争解決のプロセスにおいて関係者たちの間に生じた人的交流について、具体的な検討を進める段階に入った。ただし、昨年度末に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響によって英国での史料調査が実施できなかったため、必要な情報を十分に得るには至らず、現時点では断片的な傾向の把握にとどまっている。それでも、当初想定していた通り、教皇特任裁判の場が多様な人的交流の機会を継続的に生み出していた様子について、実態が徐々に明らかになりつつある。 昨年度までの調査によって、特任裁判官と紛争当事者、あるいは特任裁判官同士の間には、通常の教会裁判では生じえないような接触の機会が多発していたことが判明していたが、それに加えて、実際の裁判の過程においては、裁判官以外にも実に様々な人物が紛争の解決に関与していた状況が明らかになってきている。その背景には、教皇特任裁判における紛争解決の手段として、裁判官の判断に基づく判決よりも、紛争当事者同士の合意の実現が優先される傾向にあったことが大きく影響している。最終的に判決によって解決した事例は全体の2割弱に過ぎず、それ以外の事例においては、紛争の解決を導く過程で様々な形で裁判官以外の人物の関与が確認される。特に重要な点としては、そうした人物の中に聖界人のみならず多くの俗人が含まれていることであり、また、俗人たちは裁判中に限らず裁判後においても、合意の結果を確実に維持するために重要な役割を期待されていた。 教皇特任裁判は、中世盛期スコットランド王国内における人的交流促進の場として特有の役割を果たしていたと考えられるが、個々の裁判によって生じる人的関係の連環を見定め、王国共同体の実現へとつながる人的ネットワーク形成における教皇特任裁判の役割を総合的に把握するには、英国での史料調査に基づくより詳細な分析が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響により、本年度も英国での史料調査をおこなうことができなかった。当初予定していた3回分の調査が実施できておらず、代替手段も限られるため、研究の進行は予定よりも遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
英国への渡航が可能になり次第、未刊行史料の調査を進め、個々の教皇特任裁判に関わった人物に関する裁判前後の人的関係を詳細に跡付け、教皇特任裁判が王国内の人的ネットワーク形成において果たした役割について総合的に分析する。 なお、次年度は最終年度にあたるが、年度内に英国での調査が実現できない場合には、研究期間の延長の申請も視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響により、英国での史料調査が実施できなかったため、支出予定であった旅費を繰り越すこととなった。 海外での調査が可能になり次第、史料調査の旅費にあてる予定である。
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