2023年度は、長らく新型コロナウィルス感染症の影響で断念していた海外での史料調査を実現し、教皇特任裁判に携わった特定の関係者(詳細な質的分析の対象としてピックアップした人物)の動向を具体的に把握するのに必要な史料を、スコットランド国立図書館と国立文書館において調査・収集した。 これまでの研究で、12~13世紀にかけてスコットランドでおこなわれた158件の教皇特任裁判について、裁判官の人選の在り方や、紛争当事者や紛争解決に携わった協力者たちとの間の関係性などを詳細に分析し、裁判の過程で関係者たちの間でどのような人的関係が結ばれていくかを具体的に跡付けていった。 蓄積されたデータの量的分析からは、通常の教会裁判や他の人的交流からは一般的に想定されない広域的な関係性が多様に生み出されていく傾向が確認され、同時期に形成が進む王国共同体の基盤となる人的ネットワークの構築において、教皇特任裁判の制度が一つの重要な機会を提供していたことが明らかとなった(「中世盛期スコットランドにおける教皇特任裁判官による紛争解決 -人的交流の観点から-」『中近世ヨーロッパ史のフロンティア』(髙田京比子ほか編、昭和堂、2021年))。 さらに、教皇特任裁判が人的交流の回路として果たした役割をより明確に特徴づけるための質的分析として、情報量が比較的豊富な人物の事例を詳細に検討する作業を進めている。本来であれば、最終年度内にすべての研究成果の公表に至る予定であったが、新型コロナ感染症による長期におよぶ海外調査の制約の影響から、本年度に実施した上述の海外調査で収集した情報を含めた考察を完了したうえで、最終的な成果をまとめることとなる。
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