研究課題/領域番号 |
18K01059
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
高橋 浩二 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (10322108)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 考古学 / 掘立柱建物 / 布掘り柱掘形 / 集成 / 高床倉庫 / 弥生・古墳時代 / 日本海ルート / 移動・移住 |
研究実績の概要 |
今年度も引き続き、①各遺跡の類例について遺構平面図や土層断面図を見直し、主に地中梁の設置という観点から布掘り柱掘形の分類の確認を行った。また、北陸における地中梁の類例を実見し(石川県大友西遺跡、新潟県蔵王遺跡)、規模や形態、柱との結合部の状態等を観察するとともに、布掘り柱掘形分類との整合性を検討した。 並行して、②山陰における布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の集成を行った。その結果、同建物の確認例はあわせて36遺跡97例で、北陸に次いで類例が集中する地であることが分かった。旧国別でみると、石見は1遺跡1例、出雲は10遺跡26例、隠岐は0例、伯耆は14遺跡29例、因幡は11遺跡41例(建替え1例含む)となる。また、山陰における変遷を検討した結果、弥生時代中期後葉と考えられる例が最も古く、後期前葉から増加しはじめ、北陸と同じく後期後葉から終末期には大型のものが現れるとともに、柱間数や平面規模の多様な建物が見られるようになる。そして、古墳時代前期後半以後には数的に衰退し、古墳時代中期~後期の中で収束することが明らかになった。 また、③他地域にはあまり認められない布掘り柱掘形Ⅰ類のものが、山陰と北陸に一定数存在することが分かった。これは日本海通交を検討する上で一つの重要な資料と言える。ただし、梁間3.0m未満の掘立柱建物は高床倉庫とみなすべき一方(当該建物の場合は梁間3.3m)、梁間4.0mのものは平屋建もしくは屋根倉の形式と推定されており(浅川滋男ほか2018「松原田中遺跡の布掘柱掘形と地中梁に関する復元的考察」『松原田中遺跡』、鳥取県教育委員会)、この基準にしたがうと、山陰では前者が主体なのに対し、北陸では後者が多数を占めている。このように、当該建物の関連性がうかがえる地域どうしでも様相の違いがあることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の目的のうち、①布掘り柱掘形の分類の再検討に関しては、地中梁の設置という観点に着目することで、Ⅰ~Ⅲ類の違いのもつ意義について一定の見通しを得ている。また、地中梁が確認又は推定できる例として今年度1例を追加し、7遺跡15例あることが分かった。地中梁について細かく見ていくと、断面形などに違いが見られ、いくつかのタイプに分類できる可能性があるため、引き続き検討をすすめる。研究目的②の全国的集成に関しては、山陰と北陸における既刊報告書分の集成がほぼ完了し、分布の特徴等についてこれまでの考えを補強する結果を得ることができた。また、他地域についても引き続き集成をすすめ、全国的な分布の傾向を把握した。研究目的③の系譜関係や伝播過程等を考える際に重要な当該遺構の時期に関しては、山陰と北陸における様相はおおよそ明らかにできたが、それ以外の地域においては不明確なものも多く、出現や変遷について十分に検討をすすめることができなかった。また、出土遺物の実見等に関しても今年度に計画していた資料調査を一部実施することができなかった。 このように、研究目的のうち、②については進展しているが、①については引き続き検討が必要であり、また③については未だ十分に検討がすすんでいるとは言えない状況であるため、現在までの達成度について上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的のうち、①の布掘り柱掘形の分類の再検討に関しては、地中梁が確認されている例や推定される例が重要であり、実測図や写真に基づき引き続いて検討をすすめるとともに、可能な限り資料調査を実施する。また、地中梁の断面形などを基準にして分類や系譜関係などを検討する。 研究目的②の全国的集成に関しては、山陰及び北陸は2021年度に発行された報告書等を確認する。他の地域についても未見の報告書等を調べ、集成を完結させる。そして、全国的な分布図とともに、北部九州、瀬戸内から近畿、東海から東北南部、山陰、北陸の地域ごとに、出現と変遷、衰退を考えるための消長表を完成させる。 その上で上記の成果を踏まえて、布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物を地域間で比較しながら、③当該建物の出現や系譜関係、伝播過程について検討する。そして、関連する遺物の研究も参考にしながら、日本海ルートにおける人の移動・移住という観点から検討をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、出土遺物の実見等に関して今年度に計画していた資料調査を一部行うことができなかったため、次年度に実施することにした。この他、弥生時代・古墳時代関係等の図書を購入する予定である。
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