今年度も引き続き、①地中梁の設置という観点から布掘り柱掘形の分類の確認を行った。また、松原田中遺跡などで確認された地中梁を実見して断面形等を観察し、布掘り柱掘形分類との整合性を検討した。並行して、②全国的な集成を行い資料を追加するとともに、分布図を作成した。また、③当該建物の出現や衰退、系譜関係や伝播過程などを考えるために、北部九州、山陰、瀬戸内から近畿、東海から東北南部、北陸にわけて地域別の確認数や消長表を作成した。 研究の結果、①布掘り柱掘形の分類の再検討に関しては、地中梁の設置という観点に着目することで、Ⅰ~Ⅲ類の違いのもつ意義について一定の見通しを得ることができた。また、地中梁の類例が7遺跡15例あることが分かった。地中梁は断面形などに差が認められ、複数タイプに分けることが可能であり、当該建物の系譜関係を検討する上で重要と思われる。 ②全国的集成に関しては、山陰37遺跡98例、北陸約67遺跡約215例で、その他の地域例を合わせると、全国で約132遺跡約348例になることを明らかにした。そして、長崎県から福島県にかけて広く分布するが、山陰と北陸にとくに集中することをあらためて確認した。また、初期の例は弥生時代中期前半のものであり、全国的に古墳時代前期後半に衰退するが、地域によって変遷が異なることを明らかにした。 ③系譜関係や伝播過程に関しては、布掘り柱掘形Ⅰ類のものが山陰と北陸に集中すること、地中梁の類例が北部九州と山陰、北陸で見られること、Ⅱ類の例が東海から東北南部の太平洋側に時期をおって散見されることから、これらの地域における系譜関係がうかがえた。一方で、当該建物には時期不明な例が多く、また型式的変化が明確でないなどの課題も残った。今後さらに系譜関係や伝播過程を明らかにする中で、人の移動や移住について検討をすすめることが重要である。
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