研究課題/領域番号 |
18K01060
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
徳永 里砂 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (00458936)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アラビア半島 / ヒジャーズ地方 / 初期イスラーム時代 / アラビア文字 / グラフィティ |
研究実績の概要 |
本課題は、イスラーム時代最初期(7、8世紀)の旅人たちがアラビア半島ヒジャーズ地方の山谷の岩に残したグラフィティ(落書き、非公的碑文)を資料に、地理書や旅行記の編纂以前の陸上ネットワークの様相を探る研究である。2020年度は、前年度までの調査で記録した250 点以上の古代及び初期イスラーム時代のグラフィティとそれらに関連するペトログリフ(岩絵)を整理し、分布図の作成、写真を用いた碑文トレース、翻字、解読作業を行った。この作業を通して得られたアラビア文字グラフィティの変則的な綴りに関する所見は、刻者の言語的背景に関わるその重要性に鑑み、欧文の論考にまとめた。また、グラフィティの人名研究からは、同一刻者による他地域の碑文の存在や部族名が明らかとなり、刻者の移動の一端を知ることができた。2020年度の調査成果については、2021年3月の第28回西アジア発掘調査報告会(オンライン)等にて報告を行った。 一方、新型コロナウィルス感染症の世界的流行の影響により、今年度の現地調査と国際学会発表については、計画変更を余儀なくされた。現地調査については、前年度に引き続き2、3月にサウジアラビア、タブーク州におけるグラフィティ調査を計画していたが、中止となった。しかし、申請者は前年度(2020年2、3月)の同地域での調査後、同事由により帰国の途が閉ざされ長らく現地に留まったため、その間、小規模ながらサウジアラビア南西部のマッカ巡礼路周辺の遺跡踏査を行い、比較研究のための知見を広めることができた。国際学会での成果発表については、発表を予定していた7月のアラビア学セミナー(スペイン、コルドバ)が延期となったが、2021年7月のオンライン開催が決定し、既に口頭発表が受理されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウィルス感染症の世界的流行の影響により、タブーク州でのグラフィティ分布調査の実施が叶わなかったため、調査域の面積の観点から研究の進捗状況を見ると、当初の予定よりやや遅れが生じている。また、発表予定であった海外の学会も同事由により中止となり、成果発表に関しても当該年度は計画通りに進めることができなかった。 しかし、前年度までに当初の予定を上回る日数の調査を行っていたため、既に初期イスラーム時代の陸上交通網や往来した人々に関する様々な情報を含む、数多くの資料が蓄積されていた。そのため、本年度は写真を用いた新資料のデータ整理と解釈、考察に計画以上の時間を費やすことができ、これに基づく研究成果発表を行った。 2021年度にはタブーク州にて8月と2、3月の計2回のグラフィティ分布調査を実施し、前年度の調査の遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、タブーク州におけるサウジアラビア・日本共同調査隊に参加し、8月に20日程度、2、3月に3週間程度のグラフィティ調査の実施を計画している。調査はサウジアラビア文化省との共同調査で、既に計4期の調査を行ってきた。その間に同国のカウンターパート、現地インフォーマントとの良好な関係を築くことができ、調査再開に向けての協力体制は整っている。新型コロナウィルス感染症の影響により生じた調査の遅れを取り戻すべく、可能な限り広域な分布調査を行う予定である。 国内での作業としては、発見した初期イスラーム時代のアラビア文字グラフィティの資料化の作業を継続する。刊行に向けて碑文トレースの作成・解釈を進めると同時に、人名や出身部族から刻者の行動域に関する研究に重点を置く。 成果発表については、7月のアラビア学セミナー(国際学会、オンライン開催)での口頭発表が既に受理されている他、国内学会、学術雑誌でも発表を行う予定である。 なお、今後も新型コロナウィルスの感染拡大により調査を行うことができない場合は、これまでの調査で得られた資料の刊行と、それらに基づいて地理的に限られた範囲での陸上交通網の研究を行うこととする。また、古道上に残されたグラフィティは、イスラーム最初期のアラビア語、刻者の方言、正書法の成立過程を示す貴重な情報源でもあるため、このような切り口からのアプローチも加えて研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響により、発表予定であった国外の学会が開催されず、またサウジアラビアにおける現地調査も実施することができなかった。そのため、国外出張旅費の出費がなかった。 一方、前年度までは海外出張が当初の計画より長期となったため、旅費の出費が予定額を大きく上回り、物品購入が十分にできていなかった。よって、2020年度は、必要な物品購入を中心に支出した。 2021年度は当該年度に生じた調査の遅れを取り戻すべく、2回に渡るより長期の海外調査を計画している。したがって、出張旅費は当初の予定額を上回ることが予想される。このような事情に鑑み、本年度交付された助成金の一部を次年度使用額とした。
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