研究課題/領域番号 |
18K01062
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
大賀 克彦 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 特任講師 (70737527)
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研究分担者 |
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (10570129)
谷澤 亜里 九州大学, 総合研究博物館, 助教 (50749471)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 玉 / 流通 / 威信財システム / 国家システム / 鉛同位体比 |
研究実績の概要 |
古墳時代後期~終末期における威信財システムの構成部分として、玉類の流通状況に関する検討を行った。地域性や時期的変化を把握するために適当な調査対象資料を選定するとともに、ひたちなか市埋蔵文化財センターおよび紀伊風土記の丘資料館において、実物資料の観察を行った。得られたデータは、既調査資料と併せて、それぞれの地域の様相を実証するものである。すなわち、前者の所蔵資料においては、終末期前半まではガラス小玉を中心に、石製の山陰系や東海系が加わった豊富な玉類の副葬が継続するが、国家システムに由来する玉類は認められない。一方、後者の所蔵資料では、後期中頃には玉類の構成がほぼガラス小玉に限定され、種類の構成も前者を含めた東日本とは大きく異なっていた。 また、ひたちなか市埋蔵文化財センター所蔵の資料に含まれていた鉛ガラスを素材とし、鋳型を用いて再生されたガラス小玉に関しては、鉛同位体比の材質調査および鉛同位体比の測定を行った。結果は、古墳時代的な素材の獲得および玉への加工を示すものであった。ちなみに、当該の種類のガラス小玉に関して鉛同位体比の測定を行ったのは、本研究が最初である。 一方、対象時期における鉛原料の獲得状況を検討するために基礎的データとして、近畿北部~福井県と愛知県北部において鉱石資料の収集を行い、そのうち4サンプルについて鉛同位体比の測定を行った。現状、古代における利用が想定されるような分析値ではなかったが、引き続きデータの充実を図る予定である。また、比較データとして、学術雑誌に公表された中国大陸および朝鮮半島の鉱山で産出した鉱石の鉛同位体比を集中的に収集した。その結果、鉛ガラスの生産に利用された原料産地に関して、かなり具体的に議論することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最も中心的な作業内容である各地域の代表的な資料群の実見調査に関しては、対象資料の選定を行ったが、勤務地における業務とのかねあいから、現地を訪問した上での調査は予定ほど進めることができなかった。また、鉛素材の供給関係を示す資料であり、玉類に準じて流通したと考えられる資料でもあることから、新たに注目していた鉛製耳環についても鉛同位体比の測定を計画していたが、所蔵機関との交渉において借用の体制および期間の交渉が遅れたことから、年度内の実施を断念した。 以上の点から、進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在はやや進捗が遅れているが、時間配分のみで解決可能な問題である。次年度は、特に前半に時間的な余裕が見込めることから、現地を訪問した実見調査を集中的に実施して、遅れを解消する予定である。また、借用交渉を進めていた鉛製耳環の鉛同位体比分析についても、早々に開始する。 他の内容に関しては、当初の予定通り行う。玉類の分類的な再検討としては、古墳時代後期後半以降に出現する種類として、重層ガラス玉を含む植物灰ガラスの分析値を重点的に追加する。また、鉛同位体比の鉱石データとしては北陸東部および中国地方西部において、サンプルの収集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実物資料を所蔵する調査機関を訪問して行う実見調査を、予定の回数ほど実施することができなかったことから、次年度使用額が発生した。対象資料の選定自体は済ませてあることから、今後はこの実見調査を重点的に行う予定である。そのため、旅費が当初の予定以上に必要であり、次年度使用額を利用したいと考えている。
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