研究課題
本研究は、西日本地域における人口動態について、①縄文時代の遺跡空間データベースの作成、②居住形態と居住集団の規模の推定、③縄文時代の環境収容力の推定の3点を統合することで明らかにすることを目的としている。本年度は昨年度の課題としたデータベースの構築にかかる補足、人口動態復元に関する方法論的展望、古環境の推定について継続して研究を進めた。1.中国・四国地方の縄文時代遺跡データベースの補足を行った。そして、当該地域における遺構の構成やその量的変化の分析を行い、当該時期における社会や居住形態の変化とその要因についてエージェントベースシミュレーションを用いて検討を行った。2.岡山県域における縄文時代の放射性炭素年代測定値を集成し、また一部の遺跡においては年代測定を実施した。岡山県域の遺跡は中国・四国地方の編年における基準遺跡が多いため、その年代値は広く活用することが可能となる。考古学的な方法論による年代決定はもちろん有効ではあるが、環境変遷と遺跡の考古学的変化を関連付ける場合や考古学的変化を定量的に扱う場合には、放射性炭素年代測定が必要となる。これにより、環境変遷と遺跡の変化および人口動態との時間的対応関係に見通しを得ることが可能となった。3.古環境の推定について、岡山平野を対象として行った。岡山大学構内遺跡で採取されたボーリングコアの分析を進め海水準変動の復元を行い、GISを利用して当時の利用可能な土地がどの程度であったのかについて明らかにした。また、これまでのボーリングコアを集成し古地形の発達過程について平野全体のマクロスケールから単体遺跡の立地傾向といったミクロスケールに至るまで検討を加え、遺跡立地との相関関係を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
令和2年度に予定したものは、①の遺跡空間データベースの構築、②居住形態と居住集団の規模の推定、③縄文時代の環境収容力の推定であった。①については昨年度残した補足を行ったことでデータを整備することができた。②は、①によりその概略的分析について進め、新たな研究手法であるエージェントベースシミュレーションを用いて発表することができた。また、放射性炭素年代測定値を集成できたことで、遺跡動態の補正について見通しも得ることができた。③についても、岡山平野を対象として具体的に進めることができ、発表および論文として公表した。①および③についてはおよそ完了し、②は①③を踏まえて行う更なる分析が今後の課題となる。以上から、全体の進捗状況としては概ね順調に進展していると評価した。
令和3年度は、これまでの古環境情報をGISに格納する作業を行う。そして遺跡空間データベースを用いて、遺跡立地から未知の遺跡の存在を多変量解析等によって予測する遺跡存在予測モデルを構築し、遺跡が存在し得た仮想遺跡最大数を見積もる作業を行う。これに加えて、遺跡動態や集落および住居址の規模や構成についての考古学的な分析を行い、両分析結果を比較することで、人口変動の環境的要因を明らかにする。こうした作業については他地域との比較も試みることで、方法論の整備を行う。また引き続きエージェントベースシミュレーション研究との接合を模索する。本分析の結果を国内・国外学会にて発表する。
国内における資料調査を延期し、また国外における研究発表を予定していたが、中止またはオンラインになったため次年度使用が生じた。次年度では今年度延期していた資料調査に加え、次年度予定および新規に必要な調査を行うことで執行を予定している。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (7件) (うちオープンアクセス 6件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
中部瀬戸内地域における縄文時代の環境変動と人間活動に関する考古学的研究
巻: - ページ: 36-43
巻: - ページ: 106-113
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Gwen Robbins Schug (eds.) The Routledge Handbook of the Bioarchaeology of Environmental Change.
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