研究課題/領域番号 |
18K01067
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
吉田 広 愛媛大学, ミュージアム, 准教授 (30263057)
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研究分担者 |
塚本 敏夫 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, センター長 (30241269)
宮里 修 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (60339645)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小型青銅利器 / 転用 / 嫁ヶ渕遺跡出土青銅付木製品 / 銅鏃 / 3Dデジタルレプリカ / 荒神谷遺跡出土B62号銅剣 / 姉遺跡出土鋳型 |
研究実績の概要 |
既調査資料も含めた小型青銅利器の詳細表面観察と写真撮影を積極的に進めた結果、銅剣等の大型青銅器からの転用にあたり、その使用とは異なる意図的な破断痕跡を見いだすことができ、小型利器転用を意図した破片化行為の存在を窺い知ることができた。また、昨年度見いだした南あわじ市嫁ヶ渕遺跡青銅付木製品については、マイクロフォーカスX線CTシステムによる撮影を行い、刃端が残る銅斧破片が打ち込まれた棒状木製品であることが判明した。日本列島における稀少な朝鮮半島製銅斧資料であり、その破片流通と転用による、小型青銅利器としての具体的使用方法を窺うことのできる重要資料である。 また、韓国国立中央博物館において松菊里遺跡出土遼寧式銅剣転用銅鑿の詳細調査を行い、同資料を日本列島における小型転用利器の始源に位置づけられることを確認した。共同研究者宮里も韓国で調査を行い、日韓の比較研究を進めている。 他方、弥生時代後期を中心とした銅鏃については、近畿地域の資料について集中的な調査を行い、消費財的な小型刃物として量産的な製作傾向を確認する一方で、有孔銅鏃等には小型刃物としての機能以上の意図を窺った。 鋳造後未研磨の荒神谷遺跡出土B62号銅剣の3Dデジタルレプリカを用いた複数回の研磨実験を行い、樋先端部や刃部・刳方部をどのように研ぎ出し銅剣完成品としたのか、その際B62号銅剣に窺える鋳型由来の形状がいかに製品に反映されるのか経験的に明らかにし、荒神谷銅剣報告書で検討した同笵関係認定に関わる知見を更新した。 また、佐賀県姉遺跡出土鋒鋳型と銅剣鋳型について、共同研究者塚本の協力を得ながら、デジタルカメラ撮影からのフォトスキャンにより反転3Dデジタルレプリカ用のデータ作成を行い、レプリカへの出力は未了ながら、武器形青銅器鋳型の製品型式同定において、復元実験可能なきわめて有効な方法を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小型青銅利器を中心とした資料調査は、おおむね順当に実施できている。嫁ヶ渕遺跡出土青銅付木製品のマイクロフォーカスX線CTシステムによる撮影に予定以上の研究費を投入することとなったが、分担研究者として参画している他科研(「器物の「伝世・長期保有」・「復古再生」の実証的研究と倭における王権の形成・維持(研究代表者:岩本崇)」、「松帆銅鐸発見を契機とする銅鐸論の再構築(研究代表者:難波洋三)」において重複する資料として、前者では弥生時代から古墳時代への転換期の青銅器として銅鏃について、後者では松帆銅鐸周辺の嫁ヶ渕遺跡出土青銅付木製品他南あわじ市の資料について、調査を進めることができた。 また、昨年度持ち越していた韓国出土資料の調査については6月中旬に実施し、新出資料を始めとした情報収集も継続している。 3Dデジタルレプリカを用いた実験研究については、荒神谷遺跡出土B62号銅剣レプリカを用いた研磨実験を、吉田において複数回実施し、研磨による銅剣完成工程の概要を把握した。それとの比較をも意図した姉遺跡出土鋳型反転製品3Dデジタルレプリカについては、嫁ヶ渕遺跡出土青銅付木製品の分析に費用を要したためレプリカ製作には到らなかったものの、次年度早々に出力できる用意が調っている。
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今後の研究の推進方策 |
小型青銅利器を中心とした資料調査は、既調査資料も含め、詳細表面観察と写真撮影を中心とした資料調査を継続的かつ積極的に行っていくこととする。とくに、嫁ヶ渕遺跡出土青銅付木製品資料については、マイクロフォーカスX線CTシステムによるデータと対照しながら実物資料の実測調査等を行い、成果を報告できるよう作業を進める予定である。なお、韓国資料の調査については、コロナ禍の影響により実地調査の見通しは厳しいが、共同研究者宮里とともに情報収集を継続共有しながら、比較研究を進める予定である。 荒神谷遺跡出土B62号銅剣3Dデジタルレプリカの研磨実験研究は、前年度の実施を踏まえ、新たな研究協力者への実験委託も含め実験回数を増やし、B62号銅剣からの研磨による変形異同の実例を蓄積していく。そして、荒神谷遺跡発掘調査報告書においてB62号銅剣と同笵関係を認定していた銅剣も含め、共同研究者塚本の協力を得て、3D計測に基づき研磨による変形の実相を明らかにするところである。 また、姉遺跡出土鋳型反転製品3Dデジタルレプリカの製作から、そのレプリカの研磨整形実験を行い、同銅剣鋳型・鋒鋳型による製品の型式を特定する。とりわけ、荒神谷銅剣と同型式の銅剣鋳型との説も提起される鋒鋳型については、荒神谷遺跡出土B62号銅剣3Dデジタルレプリカの研磨実験を踏まえながら行うところである。 以上の調査・実験を総合して、小型利器類と大型武器類、祭器化した大型武器類と小型武器類の相関を整理しつつ、石器時代から鉄器時代への長い転換期にあたる弥生時代において、青銅器の刃物としての果たした役割・地位について、他方で儀器化・祭器化といった非実用化の流れに留意しつつ、総合的な考察に進む。
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