本研究課題は①中世土器・陶磁器編年根拠資料の再検討、②中国における流通拠点(寧波)資料の考古学的調査、③中世考古学方法論の理論的検討の3点を柱とするが、このうち②については2020年以来の新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより海外の渡航制限や活動自粛が続いたために、十分な調査ができない状況であった。これまで二年度にわたる助成期間の延長申請をおこなって調査機会の確保を期したものの、本年度も各種制限が続いたうえに、渡航地となる中国では感染爆発もあったため、先方との折衝も含めて企画を実施するうえで十分な準備ができず、結果として調査を断念せざるを得なかった。そのため最終年度は上記①・③に関する研究を中心にすすめることとした。 ①については、主たる研究対象とする土師器に関して、京都産土師器の既往の編年研究を再整理・分析しながら中世土師器生産の包括的な動向についてまとめた一方、播磨西部地域の資料を具体的に検討し、地域的様相の一端を明らかにした。 ②について、計画の主眼であった中国の調査はかなわなかったのは先述の通りであるが、国内の流通状況をめぐる問題をとりあげ、堺環濠都市遺跡を核とした中世流通の考古学的研究の成果や方法について検討をおこない、学史をふまえつつ、遺物の動きから中世の流通を復元する考古学的方法に関する省察をおこなった。これは課題③とも関連する成果である。 ③に関しては、引き続き歴史考古学・中世考古学や考古学理論全般に関する最近の海外の研究成果を広範に収集・検討し、日本における中世考古学研究の方向性を学史的に回顧しつつ、とくにその学際性の局面における問題点と方法について研究をおこない、若干の成果を得た。また、関連する課題として中世土器・陶磁器の使用における文化的問題について検討し、室町時代の儀礼的食事における土器・陶磁器の使用傾向に関する研究をおこなった。
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