研究課題/領域番号 |
18K01075
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
豊島 直博 奈良大学, 文学部, 教授 (90304287)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 装飾付大刀 / 圭頭大刀 / 頭椎大刀 / 古墳時代 / 鉄製武器 / 国家形成 |
研究実績の概要 |
今年度は頭椎大刀に関する論文を執筆し、雑誌に公表した。頭椎大刀は従来、無畦目式から竪畦目式、横畦目式へと変化すると考えられてきた。しかし、資料調査を進めるうちに、把頭に装着される鳩目金具が編年の重要な要素であることに気づいた。それを中心に新たな分類と編年を構築し、長脚式から短脚式に変化するという新たな分類を提案した。その結果、頭椎大刀は5段階に編年され、6世紀中頃から7世紀中頃まで生産されることが明らかになった。 新たな分類に基づいて分布を検討すると、一貫して群馬県に多いことが判明した。そこで群馬県の出土文字資料に目を向けると、物部氏に関する資料が多い。いっぽう、頭椎大刀の祖形と思われる木製把が奈良県天理市布留遺跡で出土している。布留遺跡は古代豪族物部氏の本拠地であり、頭椎大刀の生産と流通に物部氏が関与するという結論を得ることができた。ただし、物部氏は仏教の導入を巡って蘇我氏と対立し、587年には物部守屋が蘇我馬子に攻められて本宗家が滅亡する。頭椎大刀の生産と流通の様相は7世紀初頭頃に大きく変化することから、7世紀前半の頭椎大刀は工房や工人を収奪した蘇我氏によって生産が引き継がれたと想定した。 頭椎大刀の論文執筆と併行して、圭頭大刀の資料調査を進めた。その結果、圭頭大刀は大きく3型式に大別できるという見通しを得た。また、福岡県、広島県、島根県、愛媛県、静岡県、千葉県、群馬県、栃木県、福島県などに集中的に分布することが判明しつつある。今後はそれらの地域で出土文字資料の分析を進め、圭頭大刀の生産主体を解明する予定である。 さらに、これまでに執筆した装飾付大刀に関する論文について補足調査を行い、環付足金具、双龍環頭大刀の分布図を改訂した。その成果について研究成果の中間報告書をまとめ、刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目の今年度は、頭椎大刀に関する研究成果を雑誌論文に公表した(豊島直博2019「頭椎大刀の生産と流通」『考古学雑誌』第102巻第1号、日本考古学会)。頭椎大刀は従来、単系列的な変化が想定されてきたが、把頭に装着される鳩目金具に注目し、新たな分類と編年を提示した。その結果、頭椎大刀は6世紀後半から7世紀前半にかけて生産され、生産には物部氏が関与することが判明した。 また、過去に執筆した装飾付大刀に関する論文について、とくに環付足金具と双龍環頭大刀について新資料の調査を行い、分布図を改訂した。その結果、環付足金具は広島県に多いことが判明し、圭頭大刀の分布とも関わることが明らかになった。それらの成果については中間的な研究成果報告書にまとめた(豊島直博2020『鉄製武器の生産と流通に関する研究Ⅰ』奈良大学文学部)。 また、今年度は装飾付大刀の一種である圭頭大刀について資料調査を進めた。福岡県、広島県、静岡県、長野県、東京都、山梨県などで資料調査を実施し、圭頭大刀の実測と写真撮影を行った。その結果、圭頭大刀の分類と編年について一定の見通しを得ることができた。一連の調査の結果に基づいて圭頭大刀の系譜や分布状況を考察し、生産主体についてもある程度の見通しが立った。考察の一部について「圭頭大刀の生産主体」と題する論文を執筆し、『古谷毅氏還暦記念論文集』(仮題)に投稿した。 以上のように、研究はおおむね順調に進展しているといえる。最終年度には圭頭大刀の資料調査を継続し、分布の集中地域を抽出する。さらに当該地域の出土文字資料を探索し、圭頭大刀の生産主体を考察する。それらの成果は雑誌論文にまとめる。また、『装飾付大刀の生産と流通に関する研究(Ⅱ)』と題した最終的な研究成果報告書をとりまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在は圭頭大刀の資料調査を行い、新たな分類と編年を構築する途上にある。圭頭大刀は意匠によって大きく3型式に大別できる。さらに、把頭の製作技法によって8型式に細分が可能であるという見通しをもっている。また、これまで資料調査した地域をまとめると、福岡県、広島県、島根県、静岡県、長野県、千葉県、群馬県、栃木県、福島県に多く分布するという傾向を把握しつつある。これまでは西日本から東海地域の資料について、大半の調査を終えた。今後は東日本の資料について広く実測と写真撮影を行い、分類と編年を裏付ける作業が必要である。今年度中に論文が完成するよう、研究史の整理から文章化を始める。 本研究の成果として、すでに頭椎大刀に関する論文(豊島直博2019「頭椎大刀の生産と流通」『考古学雑誌』第102巻第1号、日本考古学会)、装飾付大刀と国家形成の関係について論じた論文(豊島直博2018「日本における鉄製武器の生産・流通と国家権力の形成」『考古学研究』第85巻第2号、考古学研究会)を個別に発表した。また、応用研究として岡山県北部における装飾付大刀の分布と古代寺院の出現について論じた(豊島直博2018「岡山県北部における古墳時代から古代への転換」『待兼山考古学論集Ⅲ』大阪大学考古学研究室)。これらの論文についても、新資料やこれまで把握しきれていなかった資料が存在することが判明した。それらの資料についても補足の実測、写真撮影を行い、分布図の改訂が必要である。 装飾付大刀の生産と流通、消滅をめぐっては、大化前代の支配制度である部民制、国造制、屯倉制と密接に関わると考えている。とくに、部民制による地方支配制度を支えた武器が装飾付大刀であると予想する。それらの検討成果について、研究成果報告書『装飾付大刀の生産と流通に関する研究(Ⅱ)』をとりまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は西日本を中心に圭頭大刀の資料調査を実施したため、旅費の削減が可能となったので、次年度使用額が発生した。また、論文執筆に際する図面作成等で謝金の使用を見込んでいたが、図面の作成作業を自分で行ったため、謝金が削減できた。 次年度は東北地方など遠方への資料調査が増えるため、旅費を増額して使用する予定である。また、研究成果報告書の刊行で経費を使用する予定である。
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