本研究は、古代宮都と地方官衙の建物・空間内でおこなわれた活動と空間利用の実態を考古学的分析に基づいて復元し、初期官衙に特徴的な「ロの字形」を呈する建物配置の歴史的特質を解明することを目的とする。本研究では、「各地の初期官衙では中央官人と在地豪族との一体感の醸成と上下関係の再確認に適した饗宴空間としての機能が期待され、「ロの字形」の建物配置が採用された」とする仮説を立て、各遺跡の遺構・遺物の検討を通じて検証をおこなうものである。 今年度は、昨年度に引き続き古代宮都および地方官衙の各遺跡の実地踏査を実施し、検出遺構の再検討と出土遺物の組成分析の検討事例を蓄積した。特に古代宮都では平城宮東院地区と内裏地区を対象に、遺構図の検討から各時期の建物配置の変化と空間構造の変化を明らかにし、文献資料による各施設の使われ方との対比をおこなった。また地方官衙では常陸国域・筑後国域を中心に郡庁・拠点集落遺跡の実地踏査と出土遺物の実見調査をおこなった。 これらの調査・研究を通じて、「ロの字形」の空間から「コの字形」の空間への変化は宮都・地方官衙で一般的にみられる変化であったことを確認した。そして出土遺物の組成分析から「ロの字形」を呈する空間では飲食をともなう行為がおこなわれていた可能性が高いことを読み取った。 今後は「コの字形」を呈する空間内でおこなわれた諸行為の復元をおこない、「ロの字形」から「コの字形」への建物配置の変化が、各施設に求められた性格の変化を反映していた可能性について検討を進めたい。 また、飛鳥・藤原地域の「ロの字形」建物配置を採用する遺跡および平城宮内の饗宴空間に関する遺構分析の成果と飛鳥時代の土器様式の変遷に関する学術論文3本を執筆し、公表した。
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