研究課題/領域番号 |
18K01082
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
森川 実 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (30393375)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 奈良時代 / 古器名 / 正倉院文書 / 東大寺写経所 / 土器の計量的研究 / 陶臼 |
研究実績の概要 |
令和1年度には、前年度までの研究成果を複数の論文にまとめ、逐次公表した。すなわち論文①「奈良時代の椀・杯・盤」(『正倉院文書研究』16号)、同②「古代の陶臼」(『古代文化』71-3)、同③「麦椀と索餅―土器から見た古代の麺食考―」(『奈文研論叢』1号)の3篇(以上、査読誌)である。このうち、論文①は正倉院文書所載土器の基礎的整理をおこなったもので、東大寺写経所における給食の食器構成を復元する内容である。また、論文②はいわゆる須恵器「すり鉢」が『延喜式』に見える「陶臼」にあたることを示し、その用法にも踏み込んだ内容で、古代の食事法というよりは調理法にも言及することとなった。そして論文③では、須恵器杯Bの一部が奈良時代には「麦椀(むぎまり)」と呼ばれた食器にあたり、それが索餅(さくべい)、すなわち麺類の食事に用いられた可能性を示した。これら3篇の論文は、いずれも古代食生活の復元に資する内容であり、研究課題に掲げた日本古代の食具様式および食事法の復元研究と呼ぶにふさわしい。 これらの研究論文により、奈良時代後半の天平宝字年間(760年代)と宝亀年間(770年代)の東大寺写経所で用いられていた実用食器のセット関係が明瞭となり、考古学における土器研究の成果との相互参照が可能となりつつある。これに関連して、奈良時代のいくつかの土器群(平城宮SK820出土土器・平城京SD5100出土土器等)について計量データの収集をおこなった。なお、土器の計量的研究に関していえば、「飛鳥時代における須恵器食器の法量変化」というテーマで発表(奈良文化財研究所・歴史土器研究会共催シンポ『飛鳥編年再考』、令和1年7月)し、同名の論文をシンポジウム予稿集にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初課題のひとつである「古代食器セットの復元」において順調に成果が得られた。「正倉院文書」所載の土器(古器名)の研究は、細部を除けばほぼ完成したとみてよい。その研究成果は、令和1年度に2篇の論文として結実した。これにより、例えば奈良時代のみやこ・平城京で出土する膨大な土器(食器)に対して、古代に用いられた器名を直接当ててよい最低限の条件が整備されたことになる。 また、古代の食器(土師器・須恵器)の計量的研究もデータの蓄積と統計図表の作成、およびデータの分析が順調に進んでおり、ことに7世紀から8世紀にかけての土器の計量的推移が明瞭化した。例えば、土師器杯A・杯Cの口径および器高の変遷が、正確な統計図として可視化できるようになった。そしてその成果の一部は、論文「飛鳥時代における須恵器食器の法量変化」(奈良文化財研究所・歴史土器研究会共催シンポ『飛鳥編年再考』、令和1年7月)においてすでに公表した。 須恵器「すり鉢」の研究は、古代東アジアに共通する調理・加工技術と直接関連しつつ、古代日本の食文化を正確に理解するうえでは不可欠と考えるようになったが、これは古器名研究を進めるなかで気づくこととなった新視点である。そこで須恵器「すり鉢」を新たに器名考証の対象に加え、『延喜式』等に登場する「陶臼」との関連性をうかがう研究に着手するなど、本研究の領域が著しく拡張した。その成果は、すでに1篇の論文として公表済である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2カ年の研究実績に基づき、今年度は研究成果報告書(書誌名未定)の作成をおこなう。その内容はいくつかのテーマからなり、第一は「正倉院文書所載土器の研究」、第二は「古代食器の計量的研究」、そして第三が「奈良時代における食器構成の復元」である。このうち、第一の課題にかんしてはデータの整理がほぼ完了しているが、第二の課題についてはなお土器の計量的データが必要であり、上半期の間には平城宮・京出土土器のデータ収集と、土器実測図の製図作業をおこなう予定である。最終的には、正倉院文書所載土器の研究と古代食器の計量的研究とを融合させ、おもに奈良時代における食器構成の再現を目指す。今年度の下半期には収集したデータの図表化と原稿の執筆・編集をおこない、研究成果報告書を刊行する。 くわえて、今年度は前著「古代の陶臼」(『古代文化』71-3所収)の補遺として「平城宮・京出土の須恵器臼」を公表するほか、これまでの研究成果をふまえたうえで、土師器杯Cの口径・器高変化についての論文(掲載書誌未定)を年度内に発表する予定である。
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