本研究は、日本列島古墳時代と朝鮮半島三国時代の馬具から、馬匹生産構造を復元するための方法論を練磨するとともに、多分野で個別的に進められて研究成果を再構成し、体系的かつ一貫性のある馬匹生産像を構築することを目的とする。具体的には両地域から出土する馬具に対する徹底的な資料観察と東北アジア規模での比較検討にもとづいて、古墳時代/三国時代における馬具の生産・流通構造を解明し、その成果をもとに馬匹生産の現場を含む消費地の様相を検討する。また馬具だけでなくそれが出土した遺構・遺跡や、周辺地形について検討しつつ、動物考古学や文献史学の成果と統合することで、日朝両地域における馬匹生産体制の復元と比較をおこなう。 最終年度となる本年度は本科研で得られた研究成果をもとに古墳時代牧の復元画を制作するとともに、研究成果と合わせて最終成果報告書『牧の景観考古学』を刊行した。同書には研究代表者、研究協力者あわせて18本の論文を収録したほか、本研究が主たるフィールドとした大阪府蔀屋北遺跡検出遺構の再検討結果も収録し、遺構一覧表を付すなど、得られた基礎資料を広く共有することにも努めた。日本古墳時代のみならず、中国や韓国の古代馬匹生産に関する最新の研究動向も含んでおり、東アジアの古代馬匹生産やそれが展開した牧の景観について、今後さらなる学際的、国際的な研究を展開していく上での基盤を整えることができた。 このほかに韓国の金海国立博物館の委託を受けて『馬に乗った加耶』の日本語版図録の翻訳に携わるとともに、東方ユーラシアの馬文化に関する一般向けの書籍『馬・車馬・騎馬の考古学』を刊行し、国際学会での発表や一般市民向けの講演を通じて、本科研で得られた成果を積極的に発信することにも努めた。
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