最終年度は、伝統技術の解明のために小豆島の大坂城石垣石丁場跡(南谷丁場)の測量調査を行い、白河市小峰城跡等で行ってきた石垣の保存管理技術の研究会の成果と合わせ「研究成果報告書」を作成した。本研究を通して明らかにした研究成果の要点は以下の通りである。 1.近世初期の公儀普請では石切り段階において非熟練労働者を大量動員し、4人1組を単位とする組織的な労働編成がなされていた。2.各大名家では家老クラスを組頭とする番方組織が平時からあり、公儀普請の石切りや普請現場では軍役と同様に番方に基盤とする家中組を編成して石垣普請にあたっていた。3.近世城郭を特徴付ける石垣の勾配設計の方法を3冊の秘伝書から復元し、それぞれの特徴と違いを明らかにした。文化財石垣の修理現場で往時の勾配の復元や修理での勾配設計への適用が可能となった。 4.文化財石垣修理に携わる熟練技能者(石工)からライフヒストリーや石垣技術の要点に関してヒアリングを行った結果、現在継承されている「伝統技術」の多くは近代の間知石積み技術にルーツがあり、技能者らが文化財石垣の解体修理を経験しながら獲得、継承されてきたものであった。石垣修理の「選定保存技術」として守るべきものは何か、安定した構造体としての価値が重視される現代の石垣修理でどう折り合っていくのかは課題として残った。5.その点で石垣修理の理念をヴェニス憲章に立ち返って整理し、歴史の証拠と構造体としての安定性の調和が求められる現代の石垣修理工事におけるオーセンティシティの具体的内容について論じた。 6.最後に石垣保存管理の実践例(5城)を検討したうえで、カルテの作成と石垣の安定性を評価していく1次~3次診断の内容、判定の指針をフロー図として示した。文化財石垣の歴史的価値を災害と共存しながら守っていくための循環系の石垣防災の枠組みを提示した。
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