研究課題/領域番号 |
18K01092
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
眞島 英壽 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任講師 (60526804)
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研究分担者 |
安保 充 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00272443)
小野 昭 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (70000502)
島田 和高 明治大学, 学術・社会連携部博物館事務室, 専任職員 (70398907)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 黒曜石 / 蛍光X線分析 / ED-XRF / ポータブル型XRF / WD-XRF |
研究実績の概要 |
黒曜石原石化学組成データベースを整備するために,本州中央部を中心に約100個の黒曜石原石について,破壊分析法の一つ,ガラスビード法を用いて,波長分散型(WD-)XRFによる,全岩化学組成分析を行った。その結果から,多くの黒曜石原石の化学組成が産地によって異なることが確かめられた。 次に,原石のWD-XRF分析(破壊分析)結果と,黒曜石石器のED-XRF分析(非破壊分析)結果を比較する上での問題点を検討するために,長野県長和町男女倉遺跡群出土の黒曜石石器について,須藤隆司氏と共同で分析を行った。その結果,原石より極端にRbに富み,水和・風化作用の大きな石器があるものの,元素濃度ベースでの原産地推定が可能であることが確かめられた。本項目の結果は,明治大学黒耀石研究センター紀要『資源環境と人類』に論文として公表した。 さらに,収蔵施設でのオンサイト非破壊分析を目的として,明治大学博物館収蔵の下原・富士見町遺跡出土の黒曜石石器について,p-XRFを用いた全岩科学分析を行った。その結果,p-XRFでは,Na~Pまでの軽元素の定量は大気雰囲気の影響が大きいが,原産地推定に用いるMn~Zrまでの元素では,その影響は小さく,十分に信頼できる分析が可能であることが確かめられた。本項目の結果は,明治大学黒耀石研究センター紀要『資源環境と人類』に論文として公表した。 一方,黒曜石原石の国際クロス分析については,データの回収を終えたが,想定した以上に機関間,手法間で分析結果のばらつきがあり,単純な手法では取りまとめが容易ではないことが明かとなった。また,ICP-MS分析については,2019年度に具体的作業に取りかかるため,標準溶液の調達や機器の調整などの,前準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,本州中央部に分布する約100点の黒曜石原石について,波長分散型(WD-)XRFを用いた破壊分析によって,全岩化学組成を得た.その結果から,微量元素組成比を用いて,従来の特性X線強度比と同等の原産地推定が可能であることを確認した。これによって,微量元素組成濃度比による黒曜石石器の原産地推定の基盤が得られた。 微量元素組成比を用いた原産地推定の具体例として,長野県長和町男女倉遺跡群出土の黒曜石石器について,エネルギー分散型(ED-)XRFによる全岩科学分析を行い,WD-XRFで求めた黒曜石原石組成との比較を行った。その結果,男女倉石器には,近隣の和田・鷹山系黒曜石に加えて,尾根を越えた星ヶ塔系黒曜石も原料として用いられていることが確かめられた。また,ごく少量であるが,北八ヶ岳系黒曜石を用いたものも認められた。本研究はWD-XRFとED-XRFという異なる方法機器で得られた黒曜石の分析結果を,濃度表示によって対比した初めての例である。 ポータブル型(p-)XRFを用いた収蔵施設でのオンサイト分析の具体例として,明治大学博物館収蔵の長原・富士見町遺跡出土の黒曜石石器についての全岩科学分析を行った。その結果,長原・富士見町石器には,箱根畑宿系,伊豆柏峠系,北八ヶ岳系,星ヶ塔系,和田・鷹山系の黒曜石が使われていることが明らかになった。本研究はWD-XRFによる黒曜石原石データを基礎として,p-XRFによるオンサイト分析によって,黒曜石石器の原産地推定を行った,初めての例である。 黒曜石原石の国際クロス分析については,分析結果の回収を終えたが,予想以上に分析結果のばらつきが大きく,分析手法等によっていくつかのグループに分け解析を行う必要のあることが判明した。また,ICP-MS分析については,必要な試薬や実験必需品などの準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に実施した研究を通じて,北八ヶ岳や箱根畑宿,伊豆柏峠などの産地の黒曜石原石について,より詳細なデータが必要であることが判明した。これらの地域について野外調査を行い,黒曜石の分布状況を確認すると共に,WD-XRFによる全岩科学分析を行い,黒曜石原石データベースの充実を図る。 ED-XRF分析については,男女倉遺跡群石器の定量分析と原産地推定を継続して行う。p-XRFによるオンサイト分析については,明大博物館蔵の下原・富士見町遺跡石器の分析を継続すると共に,群馬県榛東村耳飾り館蔵の茅野式石器について分析を行うなど,実施例を増やしていく。 黒曜石原石の国際クロス分析については,5月下旬にハンガリーで開催される黒曜石国際会議で関係者と対策を協議し,参加機関を分析手法によって3グループ程度に分けて,分析結果を評価し,まとめと論文化を図る。 ICP-MS分析については,JR-1などの流紋岩組成の地球化学標準物質の分析を実施し,WD-XRF分析と比較することによって,ジルコンなどの難溶性鉱物が分析値に与える影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本学農学部設置ICP-MSが故障するなどしたため,黒曜石原石の微量元素分析を2018年の実施することができなかった。このため,分析に際して,代表申請者が長野県長和町から農学部のある神奈川県生田まで出張するために確保していた予算が未使用に終わった。ICP-MS分析については,昨年度の予定予定分も含めて,2019年度に実施する予定である。
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