我々が開発に成功した超微量硫黄同位体比分析装置を用い、朱を構成する硫黄の同位体比分析で遺跡出土朱の産地を推定し、古代における朱の流通とその背後にある権力推移を考察することを目的とした。最終年度は日本で最初に墳墓に朱が用いられた遺跡がどこなのかを調べた。その結果、弥生時代初期の福岡県糸島市の長野宮ノ前遺跡と推察した。さらに、用いられた朱は中国産の可能性が高いことが判明した。次に中国産の朱が北部九州から瀬戸内を通り流通したかを香川県の弥生時代の遺跡17箇所から出土した朱の硫黄同位体比分析を行い調べたところ、旧練兵場遺跡でのみ中国産朱の貯蔵あるいは精製が行われたと思われる結果を得た。香川県の遺跡から得られた朱は土器や石器等に付着した微量の朱が分析対象物であった。我々が開発した超微量硫黄同位体分析装置で初めて分析可能であり、貴重な遺物に傷等をつけることなくサンプリングできた。本装置の有用性が証明され、今後益々古代遺物を用いた硫黄化合物の産地推定に役立ち、考古学研究の一翼を担える結果が得られた。
|