研究課題
文化財の虫害を未然に防ぐ予防的保存の実践において、文化財害虫の発生を早期に把握することは重要である。本研究は、文化財害虫について形態的特徴による同定法では分類が困難な幼虫や脱皮殻あるいは排泄物から遺伝子(DNA)を抽出し、DNA情報に基づき文化財害虫を同定する手法を確立することを目的とする。最終年度には次の5項目を実施した。①文化財害虫の標本コレクションの整備:先に選定した日本国内で文化財への加害事例の多い昆虫の網羅的な収集を行った。最終的に69種133個体を収集し、DNA塩基配列解析とDNA情報証拠標本の整備を行った。②標本コレクションの形態同定:DNA情報証拠標本について、それぞれの文化財害虫が属する分類群ごとに特有の形態学的な特徴を記載し、種の同定を行った。種の同定とあわせて害虫の形態写真および生態学的情報(生息地、食性など)を記録・記載し、昨年度に続いてデータベース構築を進めた。③標本コレクションのDNA塩基配列解析:形態同定を終えたDNA情報証拠標本から、形態分類の指標とならない体節の一部を採取しDNA抽出に供した。最終的にはDNA塩基配列解析が完了したのは42種60個体となった。④DNA塩基配列情報の登録とデータベース構築:本研究で得られたDNA塩基配列情報は、国立遺伝学研究所(DDBJ)への登録を行った。また、国際的なバーコードオブライフ・イニシアチブにも情報(形態写真、採集データ(採集地、採集年月日、採集者名)、同定データ(分類群名、同定者名、同定年)、DDBJ登録番号を登録し、世界中から検索が可能な基礎情報として登録を行い、公開活用が開始されている。⑤脱皮殻・排泄物からのDNA解析手法の確立:排泄物(フラス)からのDNA抽出については、一部の甲虫についてPCRによって検出が可能な手法を確立し、人工飼育中のフラスから高い精度で検出することが出来た。
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保存科学
巻: 60 ページ: 19-26
https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/823566.html