研究課題/領域番号 |
18K01101
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
光谷 拓実 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (90099961)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 年輪年代法 / 北前船 / 木材流通史 / 林業史 / ヒバ / スギ |
研究実績の概要 |
本研究は東北産スギ材やヒバ材の暦年標準パターンを応用して江戸時代に北前船によって運ばれた東北産木材が日本各地の近世建築に使われている実態を復元的に明らかにすることを目的にしている。 昨年度は新潟県内に所在する近世建築3棟(重文種月寺本堂、重文浄念寺本堂、重文浄興寺本堂)に使われているヒバ材の年輪年代学的な検討をおこなった結果、特に種月寺に使われているヒバ材は東北産ヒバ材の可能性が示唆される結果が得られた。ただし、佐渡産ヒバ材との判別は年輪データ収集が進まなかったため、まだ明らかになっていない。 本年度は福井県内に所在する近世建築3棟(高徳寺本堂、重文滝谷寺本堂、重文大安寺本堂)について現地調査を実施した。調査した3棟に使われている木材の主要樹種はヒバ材で、おもに柱、床板、縁板、天井板などに使われていることがわかった。一方、スギ材は3棟のうちの1棟の板戸に使われていた。 3棟のヒバ材から収集した年輪データを使って年輪年代学的な検討をおこなった結果、試料相互間の年輪パターンの相関が3棟ともに低い傾向にあることがわかった。東北産ヒバ材の場合、ヒノキやスギと異なり年輪パターン照合が成立しにくい傾向にあるものが多く、このような特性が結果としてあらわれたものと思われる。しかし、東北産ヒバ材の暦年標準パターンとの照合においては3棟とも点数は少ないものの成立した部材もあるので、これらは東北産ヒバ材の可能性が高い。 また、今回調査した3棟の建物のうちの1棟にはスギ材を使った板戸があり、このなかの板材の年輪パターンは東北産スギの暦年標準パターンと合致したことから、この板戸に使われているスギ材は明らかに東北産スギ材であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は新潟県内に所在する3棟の近世建築について現地調査をおこなった。このうち重文種月寺本堂に使われているヒバ材のなかには東北産ヒバ材の暦年標準パターンとの照合で、相関はやや低いものの一致した部材が確認されたので、当該建物には東北産ヒバ材が使われている可能性が高いことがわかった。なお、佐渡産ヒバ材との比較においては年輪データの収集が進んでいないため、検討はできていない。 本年度は福井県内に所在する近世建築のなかから3棟(重文滝谷寺本堂、重文大安寺本堂、高徳寺本堂)を選定し、調査をおこなった。 3棟の使用部材の主要樹種はヒバ材であり、おもに柱、床板、縁板、天井板などに使われていた。各建物の部材から収集した年輪データを用いて部材相互間の年輪パターン照合をおこなった結果、いずれの組み合わせにおいても総じて相関が良くない結果となった。3棟のうち1棟についてみると、試料点数12点相互(66組)の年輪パターン照合をおこなったところ、そのうち4組しか年輪パターンの照合が成立しなかった。他の2棟についてもほぼ同じ傾向がみられた。これはヒバ材固有の内的条件や生育地における環境条件の差に起因していることが推定される。 しかし、3棟のヒバ材のなかには東北産ヒバ材の暦年標準パターンとの照合が成立したものもあり、いずれの建物においても東北産ヒバ材が使われている可能性の高い部材が確認されたことは、本研究の目的に沿う結果が得られたことになる。また、板戸に使われていたスギ材も東北産であることが確認された。このことは福井県内においても東北産ヒバ材やスギ材が流通していたことが明らかとなった。よって本研究はおおよそ順調に進捗しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進めるにあたって初年度には北前船の寄港地でもあった新潟県内所在の近世建築3棟、本年度は北陸地方の福井県下の近世建築3棟について現地調査を実施した結果、使用木材は東北産ヒバ材やスギ材の可能性が高まった。 本年度は引き続き北前船寄港地として栄えた瀬戸内海地域や大阪を中心とした近畿地域において、その調査対象となる近世建築を選び出し、所有者の了解のもと現地調査をおこなう。さらに東北産ヒバ材やスギ材の暦年標準パターンの信頼性を一層高めるため、産地である東北地域の近世建築についても現地調査をおこない、年輪データの蓄積を計る。また、佐渡産ヒバ材についても年輪データの収集をおこない、東北産ヒバ材の年輪パターンとの相関性を検討する。以上、得られた結果をもとに文献との照合をおこなう一方で、木材流通史、ならびに建築史の研究者などとの意見交換をおこない、本研究を前へ進め、最終的な取りまとめをおこなう。
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