衝撃成形の原型としてカンヒザクラの葉を用いた。金属板は0.1mm厚の銅板を用い、導爆線を6号電気雷管で起爆し、120MPa水中衝撃波により衝撃成型を行った。硫化処理には銅板いぶし液を用い、硫化処理保護のため耐水性ラッカーを吹付けた。同一の試料中、Ⅰ硫化処理なし、Ⅱ硫化処理のみ、Ⅲ硫化処理後ラッカー吹付をそれぞれ行い、比較用とした。耐久試験として、15分間のハンズオンと手指消毒の検討のため70%エタノール水溶液拭き上げを11セット、15分毎の拭き上げのみ、30秒毎に同エタノール水溶液による手指消毒を実施し、それぞれをHSL色空間に変換し硫化処理の状態を評価した。硫化前の輝度・彩度の分布はⅠ~Ⅲ域で傾向が安定しており、ラッカー処理やハンズオンによる影響もほぼ見られない。硫化処理の後は15分毎のエタノール水溶液による拭き上げの影響はほぼ見られないが、30秒毎の手指消毒は特に輝度の上昇傾向が見られる。色相は、硫化前は350~0度の銅板の色に基づくと考えられる赤にほぼ安定しており、硫化処理後は10%程度、120度前後の補色が確認された。長期間の展示によって緑青発生を伴う場合、120度前後に偏りが生じると予想される。 10代学生20名を対象に、同試料の触察後、アンケート評価を行った。硫化処理による差は80%が「ある」と回答した。エタノール吹き上げの有無を感じ取った人数は50%であり、エタノールと触察によるラッカー層劣化の可能性がある。衝撃成形標本から形を感じ取れたという回答は80%にのぼったことからも、触察展示資料としての活用可能性は高いと考える。 自由記述からは、硫化処理がない場合の指先のすべりの感覚が形状の読み取りを阻害している様子が読み取れた。また、視覚情報と触覚情報とを組み合わせて形状を判断している様子、反射を伴う硫化処理前の金属光沢よりも、硫化処理の方が好まれているとみてとれる。
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