世界的な枯渇が問題となっている「砂」を対象とし、自然史系博物館における砂の資料収集の意義を探るとともに、砂を通した環境学習を実践していく。砂の枯渇による海岸侵食などで失われつつある砂浜の砂を中心に収集を行い、その地域性や多様性を検討し、多くの人が容易に収集できる地質資料としてのポテンシャルを砂から探っていく。 2023年度は当該科研費を延長して、コロナ禍のため前年までに実施できなかった野外調査と標本の収集を行った。新潟県、熊本県などで砂浜の地形調査や海浜砂の収集を行った。新潟県は信濃川などが運搬する砂によって広大な砂浜が沿岸部に形成されているが、一部では海岸浸食が進行しており、砂浜の危機的状況が見てとれた。熊本県は、沿岸部のほとんどが泥質な干潟であるが、天草諸島周辺には小規模な砂浜が残されており、天草諸島を中心に海浜砂の収集を行った。 また、日本地質学会(京都)、日本堆積学会(新潟)に出席し、関係研究者と海浜環境の現状と砂組成などに関して議論を行った。また、研究協力者である別所孝範氏と共同で、地学団体研究会(秩父)で「日本の海岸砂の組成(予報)」と題した研究発表を行った。 科研費の期間を通じて、研究代表者の勤務する博物館(大阪市立自然史博物館)における海浜砂標本は、約400試料から約1100試料へと2.7倍増加し、砂浜のある全都道府県の海浜砂を収集することができた。ただし地域によっては、収集密度が不十分なところもあるので、今後も継続した収集活動が必要である。また、ガイドブックの製作や展示会やワークショップの実施など、アウトリーチ活動にも十分取り組むことができ、砂浜環境の重要性やその保全について広く普及することができたと考えている。
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