研究課題/領域番号 |
18K01124
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藁谷 哲也 日本大学, 文理学部, 教授 (30201271)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱風化 / 日射風化 / アコースティックエミッション / マイクロクラック |
研究実績の概要 |
日射によって大きい温度変化を被る岩石の風化(日射風化,熱風化)は,明確な裏付けがないとしてコンセンサスが得られていない風化プロセスの一つである。そこで本研究では,アコースティックエミッション(AE)法を利用して,温度変化に伴う微小亀裂の発生をとらえ,岩石の日射風化について室内実験と野外実験をもとに解明することを目指している。2018年度の室内実験は,環境試験機を利用して80℃の温度変化を繰り返し岩石供試体(砂岩,花崗岩)に与え,岩石表面の温度,表面ひずみおよびAEなどを測定した。また,野外実験はカンボジア・シェムリアップ(A)とオーストラリア・ダンピア(B)において,岩石供試体を野外に暴露させる形式でそれぞれ実施した。岩石と野外実験地の選定は,Aでは世界遺産となっている石造寺院が砂岩からなり,日射風化による損傷が懸念されているためである。またBは,国内において最も気温変化の大きい場所で,砂漠ワニスを伴う風化岩塊(斑レイ岩,斑岩)に剥離作用が認められることによる。 室内実験の結果,2種類の岩石供試体の表面温度は設定温度に繰り返し到達し,最大の温度変化速度は2℃/分以上となり,AE信号がカウントされた。一方,Aにおける野外実験では,砂岩供試体の表面温度は約51℃~20℃に変化し,AE信号がとらえられた。この測定時の温度変化速度は,+1.50~-1.88℃/分と大きい。またBでは,砂岩供試体の表面温度は約56℃~30℃に変化したが,温度降下速度は-0.22℃/分程度でAE信号はとらえられなかった。これらの結果から,80℃以下の温度変化に伴って,供試体にAEが発生することは確認された。しかし,室内・野外ともにAEカウント数は低く,微小亀裂の発生を裏付けるに十分なカウント数には達していないと思われる。今後,実験事例を増やすとともに,露岩を対象とした野外実験を企画して実施したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,想定したように室内・野外における実験はそれぞれ進んだ。しかし,室内・野外実験では,AEは1/100秒,岩石表面温度は1秒間隔でデータを計測している。このため,1回の実験で取得するデータ量は膨大で,解析に時間を要することやAEカウント数の閾値を決定することに手間がかかっている。また,これら実験に用いている機器の納品が遅れ,実験期間が十分に確保できなかったことも原因の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
環境試験機を用いた室内実験は,温度条件を様々に変化させることが可能である。このため,今年度とは異なる温度条件,異なる岩型を用いた室内実験を進める。また,野外では先述したA,Bの実験地で供試体を用いた野外実験を継続して行うだけでなく,露岩を対象にした岩石表面の温度,表面ひずみおよびAEなどの測定を検討する。また,取得したデータは,適切なデータ処理法のもとで迅速に解析することを目指す。 いっぽう,現在行っている野外でのAEやひずみ測定では,長時間測定ができない。これは,現有のAEとひずみの計測システム,およびパーソナルコンピュータの駆動が内部バッテリーに依存しているためである。また,これら機材の表面温度は野外実験時に60℃以上の高温状態を持続するため,耐久性に不安がある。そこで,AEとひずみを計測するとともにそのデータを保持可能な単体のシステムの導入を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況で触れたように,実験に必要な機器の納入が遅れたことから,この機器の動作特性や環境試験機とのマッチングの検討などに時間を要した。これら実験補助者を導入することなく進めた準備作業のため,次年度使用が生じた。今後,実験手順を整えてルーティーン化し使用したいと考えている。また,今後の研究の推進方策で述べたように,現状のシステムでは長期間の野外測定には向かない。今後,単体で駆動するAE・ひずみ測定システムの導入も検討し,効率的に活用を目指す。
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