20世紀初頭から,砂漠や乾燥地域などで見つかるひび割れた礫や破砕した岩塊の解釈として,日射風化が挙げられてきた。これは日射によって岩石に生じる熱変化は小さいものの,長期間のひずみの蓄積がついには岩石の破砕をもたらすという熱疲労破砕の考えに基づいている。しかし,熱疲労破砕は実験的裏付けに乏しく,また野外における発生の信ぴょう性に疑義も持たれてきた。そこで本研究では,温度変化に伴うマイクロクラックの発生をアコースティックエミッション(AE)法でとらえ,岩石の熱破砕を解明することとした。室内での実験では花崗岩,結晶質石灰岩,砂岩からなる供試体に環境試験機で±0.5℃/分から±4℃/分の加熱・冷却速度を繰り返し与え,AEの大きさ,表面ひずみ,熱流,表面温度および超音波伝播速度の変化を計測した。また野外では,室内実験と同じ岩型の供試体(花崗岩・砂岩)を気温変化の大きいカンボジア・シェムリアップとオーストラリア・ダンピアの野外に暴露してAEと表面温度を計測した。これらの結果,室内実験からAEの発生は岩石表層の温度勾配に比例し,岩石の間隙率に反比例することがわかった。またポロシメータを使った分析では,温度変化速度±2℃/分までの熱サイクルを与えた供試体の細孔分布は,間隙率の小さい花崗岩や結晶質石灰岩で実験後に変化することが明らかとなった。すなわち1)熱サイクルは岩石の細孔分布に変化をもたらしAEを発生させている,2)岩石の熱破砕は温度勾配が大きければ生じやすいが,3)間隙率の大きい岩型では温度勾配が生じても鉱物粒界での破砕は生じにくいと考えられる。一方,野外実験では供試体は+1.50~-1.88℃/分の温度変化速度を被ったが,明瞭なAE信号をとらえることはできなかった。その理由として,野外における最大(最小)温度変化速度の頻度が室内実験のそれより低いことが推察されるが課題として残された。
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