研究課題/領域番号 |
18K01133
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
葉 せいい 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (30242332)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南進政策 / 南洋 / 台湾 / 植民地 |
研究実績の概要 |
本研究は、帝国日本のアジアにおける植民地支配および東南アジア、旧南洋群島への南進政策を検証し、日本による南洋を含めたアジア・太平洋地域統合の過程とその結果を分析することを目的としている。とくに、現地の都市空間や社会、人々の生活にどのような影響を与えたか、従来の研究で等閑視されていた分野を追究していく。 2020年度においては、2019年3月に実施予定の現地(台湾・パラオ・サイパン)調査結果を整理・分析することが主要な研究計画であったが、コロナ感染拡大のため現地調査が実施できず、2020年度における現地調査に基づく研究成果を出すことができなかった。また、2020年度においても、渡航が制限されていたため、海外で実施予定の文献調査および聞取り調査を実施することができず、新たな資料を入手することができなかった。 そのため2020年度は、以下のとおり文献・統計を中心とする研究を行った。1)日本と台湾ですでに収集していた文献史資料をもう一度整理し直し、日本の地理教育における東南アジア(「外南洋」)および太平洋地域(「内南洋」)の扱いの時代ごとの変化や台湾の地理教育との比較などを行った。2)日本で発行された地理教育雑誌における「南洋」についての記述について整理を行った。3)南洋における製糖業を主目的に設立された南洋興発株式会社(サイパン)についての文献を整理し、台湾で経験した製糖業の技術や方法がいかに生かされたか、南洋での経済開発にいかに寄与したかを明らかにした。4)製糖業を中心として南洋における経済開発が進んだことにより、日本からの移民が増加していったが、統計などに基づき日本から南洋各地域への移民について分析し、表およびグラフを作成した。併せて移民の出身地についての調査も行い、とくに台湾からの移民に焦点をあて、移民数の推移などの分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献資料等については、日本および台湾で収集可能なものはすでに収集済みであり、2020年度はそれらの文献史資料・統計資料および過去に行った聞取り調査に基づいて、①日本および植民地台湾における「南洋」の扱い、位置づけとその変化、②南洋における経済開発の一翼を担った「南洋興発株式会社」の詳細と台湾との関係、③南洋への日本および台湾からの移民に関する統計調査を行った。 しかし2019年度に続き2020年度も計画していた海外(台湾・パラオ・サイパン)での調査はコロナ禍による渡航制限により断念せざるを得ず、台湾・パラオで計画していた聞き取り調査をはじめ、新たな研究対象地域として設定していたサイパンに関する資料も全く収集できていない。サイパンは、南洋興発株式会社が設立され、南洋における製糖業の中心を担い、日本からの移民も多かった地域であるため、本研究においては重要な位置を占めている。 日本において収集できる文献や資料・統計などは可能な限り収集し、その分析を進めているところであるが、やはり現地の視察・観察・聞取り調査は必要である。また、パラオに関しては、南洋庁が置かれていた南洋統治の中心であったところから、やはり現地調査は肝要である。パラオは、以前、他の研究目的で訪問したことがあり、地域の巡検は実施し概要は把握しているが、日本の南洋進出との関連や南洋庁の役割についての調査、市街地の調査については、まだ調査が及んでいない。 以上のように、現時点では、すでに収集している文献史資料や統計資料、地図の整理と分析は順調に進めている状況であるが、本研究の独自性を支える現地での資料収集や聞取り調査は実施できていないことから、研究の進捗状況としては計画より遅れているといわざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究においては海外におけるフィールド調査が必須であるが、当面は難しいと考えられるため、引き続き収集した文献・統計資料のより詳細な分析、図表の整理・作成および地図の作成を進めていく。資料収集の制約に鑑み、研究テーマを文献に依拠したものを中心に再構成していくことも考えたい。 その方向性としては、以下のとおり計画している。①南洋における経済開発について、南洋興発だけではなく、台湾製糖など製糖業を通じた日本ー台湾ー南洋の関係に焦点をあて、この関係のなかで台湾がいかなる役割を担っていたのかを検討していく。今後は、戦前の日本が展開していた製糖業の発展について文献や統計を収集し整理する。②南洋への日本人および台湾人の移民についても分析を進める。委任統治領であった南洋の経済開発に積極的に乗り出した日本は、同時に移民も奨励した。満州への移民奨励政策とどのような差異があったのかを含め、南洋移民の詳細について、文献や統計から分析していく。とくに焦点をあてたいのは、植民地統治下にあった台湾からの移民である。製糖業に従事する台湾人やその家族が多く移住したと考えられ、サイパンやパラオにおいてどのような「移民社会」が形成されていたのか、その階層性を含め明らかにしたい。 今後の研究の推進方策としては、感染状況が収まり状況が許せば、台湾およびサイパン・パラオにおいて文献収集および聞取り調査を実施し、日本による南洋統治の痕跡を辿るとともに、その影響を考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、計画していた海外調査(台湾・パラオ・サイパン)について、コロナ感染拡大による渡航制限により実施できなかった。そのため図書や資料などの購入に充てたが、一部の研究費が未使用になった。 本年度、コロナ禍が収まり海外渡航が可能な状況になれば、計画していた海外調査を実施するための経費として使用する。感染状況の見通しが現在あきらかではないため、具体的な計画を立てるのは難しいが、現時点では、2022年2月に台湾において約1週間、2022年3月にサイパンおよびパラオで約2週間の調査を計画している。また、日本国内で、2020年度は感染の不安から収集できていない統治期の地図などを国立国会図書館などにおいて収集予定である。
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