研究課題/領域番号 |
18K01134
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
宇根 義己 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (40585056)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | タイ / 自動車産業 / 産業立地 / 分散立地の論理 / 生産システム / 労働市場 |
研究実績の概要 |
2018年度は,主に次の2点について実施した。1点目はタイ自動車産業集積のダイナミズムを統計的に把握する研究である。具体的には,GIS(地理情報システム)を用いて企業の立地変動の体系的な把握をおこなうため,統計データを整理分析した。タイ自動車部品工業会刊行のタイ自動車産業ダイレクトリー2014年版に掲載されている自動車企業および自動車部品企業1,965社について設立年,住所,生産内容等をデータベース化し立地分析をおこなった。なお,2018年度版を2019年3月に入手し,データベースの更新および2時点の比較を現在おこなっている。分析途中段階ではあるが,周辺地域に自動車部品企業が分散する傾向は近年においても強くはないものの,一定割合が農村地域に進出していること,日系企業に関しては製造拠点のみならず販売・統括機能のバンコク進出が継続的にみられることなどを定量的に確認した。 2点目は,北タイに進出した自動車部品企業への聞き取り調査により,タイ最大の集積地である東部経済回廊への集積とは反対の動きである「分散立地の論理」を予察的に考察した。ランプーン県には1980年代後半に工業団地公社が造成した北部工業団地があり,自動車部品企業が数社立地している。バンコク大都市圏から最も離れた自動車部品企業群として,「分散立地の論理」を調査するには適すると考え,当年度は当地を取り上げた。調査企業は4社であり,いずれも電子部品など小型製品を生産している。納品先である自動車企業や一次部品企業への納入時間はトラックで10時間以上を要するが,バンコク近郊に中間倉庫を設けるなどして物流の時間・量の調整を図り,距離の克服を実現していた。また,北タイ最大都市のチェンマイから通勤でき,ホワイトカラー・ブルーカラーの優秀な労働者を安価に確保できること,労働者の流動性はバンコク周辺と比較して弱いことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた研究は,昨年度に実施した上述の研究2点にあたる。 1点目の「タイ自動車産業集積のダイナミズムを統計的に把握する研究」については,2019年度にデータベースを更新したうえで立地分析をおこなう必要があるものの,時間を要する主な作業は終えており,概ね順調に推移しているといえる。 2点目のほうは北タイにおける現地調査をほぼ終え,2019年度の「分散立地の論理」に関する本格的調査に向けた予備的な調査としては充分な調査が実施できた。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は主に以下の2点を研究する。まず,「タイ自動車産業集積のダイナミズムを統計的に把握する研究」について,2018年版に更新したうえで立地分析をおこなう。具体的には,昨年度にデータベース化した『タイ自動車産業ダイレクトリー』2014年版(タイ自動車部品工業会刊行)を2018年度版に更新したうえで,GIS等を用いて分析する。これにより,タイ自動車産業の立地変動を定量的に把握する作業を完結する。 2点目は,自動車産業の東部経済回廊(東部臨海地域)への集積形成とは反対の動きである「分散立地の論理」について,東北タイおよびその周辺を対象とした現地調査を実施し,当該地域の実態を把握する。東北タイのなかでもナコンラチャシマ県と,同県の南に位置するプラチンブリー県は近年企業立地が進んでおり,両県を中心に現地で聞き取り調査をおこなう。また,工業団地の開発とその戦略性に関しても注目する予定である。これにより得られた結果と,2018年度の北タイでの分析結果とを比較・統合し,「分散立地の論理」を議論する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初,データベースの整理のために人件費を予算立てていたが,別の予算でまかなうことができたため,最終的に「人件費・謝金」が不要となった。次年度使用額は旅費に充てることとし,現地調査を充実させることに使用する。
|