最終年度は,タイ東部において新興型の産業立地をみせるプラチンブリ県で現地調査を実施した。日系自動車部品企業へのインタビュー調査を通じて,2014年まで同県は投資奨励法における最優遇地域(ゾーン3)であったこと,労働者の確保が比較的容易で賃金も比較的低水準であることが自動車部品企業の進出を促進したことを確認した。また,調査先の企業グループにおいてプラチンブリ県の工場がグローバル生産拠点となっている事例も確認され,そのような多頻度の輸出入の必要性,すなわち港湾等への近接性が重視される場合であっても,プラチンブリ県のような港湾等から離れた内陸地域に立地・操業していることが明らかになった。 本研究は,COVID-19の影響による2年間の調査中止を挟みながらも,地方圏に位置する日系自動車部品企業の立地メカニズムを以下のように明らかにした。1)バンコク大都市圏及び東部臨海回廊から離れたタイ北部,東北部,東部では,1個当りのサイズが比較的小型の製品を製造する2次以下の自動車部品企業が卓越している。主要取引先の現地進出に伴う随伴立地もみられる。2)タイ北部では,納品先の集中するバンコク大都市圏・東部臨海回廊まで配送トラックで約10時間もかかるため,バンコク大都市圏側に調整弁としての倉庫を設け,ジャストインタイム方式の柔軟な運用を行っている。バンコク大都市圏側に立地する自動車企業等のなかにはミルクラン方式の導入による製品の集荷も実施されている。これらにより,地方圏のサプライヤーは空間克服を実現している。3)地方圏では現場オペレーターの確保は比較的容易であるが,スタッフクラスやエンジニアクラスは質量とも不足している。4)世界的な生産拠点の位置づけを担う工場も確認され,グローバル生産ネットワークの観点からみると,タイ地方圏に立地する日系企業は高い拠点性を有するようになっていることが明らかになった。
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