研究実績の概要 |
(1)『北京地図目録:清代から民国期に作成された北京図』の作成と刊行 八旗の関連施設の所在を詳細に示す「精絵八旗布防」系北京図の研究を進めるため、同系北京図の悉皆調査とデータベース構築作業を進め、目録を完成させた。この目録は、清代から民国期にかけて作成された多様な北京図を網羅する、所蔵機関ベースの書誌目録である。収録された750点近い北京図には、手描きの絵図や近代的な測量地図のほか、外国製の地図も含まれる。各図について、目録、図録、諸機関のオンライン・カタログなど、書誌情報の出典を明記したほか、所蔵機関および公開画像については閲覧可能なサイト情報が挙げた。索引の北京図一覧からは地図群の系列や変遷の様相が明瞭にうかがえる。本編の書誌表からは各地の機関による所蔵傾向も垣間見える。地理学のみならず、北京史、地図学史、都市史、建築学、東洋史などの分野の研究にも寄与する成果である。 (2)古地図に描かれる辺境地域と首都の防衛空間の構造の分析 目録作成の調査の過程で、清代を代表する北京図様式である初期首善図(1829年以前刊行)の一点が、中央アジアの収集家の手を経て、A.フンボルトの寄贈によりベルリン国立図書館に所蔵されているという知見が得られた。また、George Timkowski, 1827. Travels of the Russian mission through Mongolia to China: and residence in Peking, in the years 1820-1821には、当日の北京における八旗による都市防備の様子が記載されるほか、著者による北京図も附されており、初期の「精絵八旗布防」系北京図と比較できる。中国辺境域を介する地図の伝播の様相をも視野に入れて、古地図に描かれる辺境地域と首都の防衛空間の構造を捉える必要があることが確認できた。
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