令和5年度は,新型コロナウイルスの拡大の影響を受けて当初の補助事業期間を延長しての6年目,研究期間の最終年度にあたり,これまでの研究成果の取りまとめを行った. 1年目および2年目前半については,コロナ禍前であり,wagyu主要生産国であるオーストラリア,ニュージーランド,イギリス,スペイン,ブラジルなどを訪問して,各国のwagyuの生産・流通・消費に関する予察的な調査を実施できた.こうした現地調査をもとに,(1)各国のwagyu産業は,それぞれの生態・社会条件のもとに歴史的に形成されていた肉用牛の具体的な生産方式や消費形態(在来の家畜登録制度や改良の体制,繁殖や肥育の技術,既存の農家や企業といった主体,牛肉の販売のされ方など)といった,ローカルな「制度」というべきもののうえに展開しており,wagyu産業の連鎖やその動態は国ごとに大きく異なっていること,(2)wagyuの国際的な産地間競争においては,こうした既存のローカルな制度を,超高級食材であるwagyuの改良・生産・販売に適したものに改変し,それを高付加価値販売に結びつけていくことが模索されていることが,明らかにされていた.本来であれば,こうした各国のwagyu産業の連鎖について詳細な事例調査を進めて,その動態を統一的に理解する分析枠組みを構築する予定であったが,3年目以降はコロナウイルスによる入国制限により情報収集の手段が限られた.このため,研究内容や進め方を根本的に見直さざるをえず,国内の和牛輸出戦略やオーストラリアwagyu産業についてホームページなどからの調査を実施するなど,5年目までは,断片的な情報収集にならざるを得なかった.6年目にはこれらの断片的な情報の整理を進めたが,超高級食材をめぐる国際産地間競争の論理を一般化するという当初の計画の最終目標には到達できなかった.今後の重要な課題として残されている.
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