研究課題/領域番号 |
18K01146
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
岩船 昌起 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (00299702)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 避難行動 / 避難所 / 時空間情報 / パーソナル・スケール / 東日本大震災 / 防災教育 / 図上訓練 / 災害記録 |
研究実績の概要 |
本研究では、岩手県宮古市および山田町の東日本大震災被災者に、パーソナル・スケールでの避難行動(地震前後から津波避難を経て避難生活まで)の聞き取り調査を行い、その成果を「災害記録」として活用して、防災教育教材を開発することを目的としている。 2021年度(令和3年度)については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による制約が若干緩くなった期間があり、岩手県に赴いての調査を2回実施できた。ただし、避難行動が行われた避難環境の再現にかかわる測量調査にとどまり、避難行動にかかわる被災者への聞き取り調査を実施できなかった。避難行動等にかかわる災害記録を対象として、『地学雑誌』特集号「災害記録」を発行でき、本研究課題の成果の一部を公表できたものの、COVID-19蔓延により聞き取り調査については、予定より遅れている。 「防災教育」については、前年度までに得た聞き取り調査結果等に基づき、鹿児島県「避難所管理運営マニュアルモデル~新型コロナウイルス感染症対策指針~(第3版)(2021年8月)」改定内容にかかわる図上訓練教材を開発して、鹿児島県専門防災アドバイザー等として自治体での講演時に避難所運営ワークショップ(図上訓練)等で活用した。また、津波とも関連して、高潮を伴うスーパー台風時の個人レベルでの避難計画づくりにかかわる防災教育教材の開発を行い、奄美群島の市町村でのワークショップを実施し、特に宇検村では、避難行動要支援者の「個別避難計画」の策定に協力・助言している。 これらにかかわる研究業績のうち、「防災教育教材の開発」については、市町村での講演等で実践事例もあり、「10.研究発表」のカテゴリーに収まらないものもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度には、岩手県に2回赴くことができたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延が全国的に継続し、被災者への聞き取り調査を実施できなかった。高齢者を中心とした東日本大震災被災者は、感染予防意識が総じて高く、緊急事態宣言下でなくても特にコミュニティ外の人間との接触を避ける傾向が強い。そこで、これまでに得た聞き取り調査結果を生かすために、測量等の現地調査を行い、避難行動が発現された避難環境の正確な再現に努めた。これによって得られたデータについては、本研究課題実施前の調査で得たものの未整備であったデータとあわせて分析して、成果を生そうとしている。 一方,防災教育教材の開発は,おおむね順調に進捗している。研究代表者は,鹿児島県専門防災アドバイザーを務めており,その活動等の中で,本研究で開発した教材を用いて,その運用を実施している。例えば,鹿児島県県教育委員会・県公民館連合会、鹿児島県高等学校養護教諭部会、喜界町、出水市等で開催したワークショップ等では,避難行動や避難所運営にかかわる図上訓練を行った。また、宇検村では、具体的な地域防災計画内で、個別避難計画や危険潮位にかかわる部分の策定に協力・助言し、防災教育教材を用いたワークショップ等を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
被災者への聞き取り調査については、抗原検査キット等を用いて「陰性」の証明の提示等、COVID-19対策を強化して準備しても、対象者である被災者の意向によって、2022年度にも十分に実施できない場合が想定できる。ZoomやLINE等の遠隔方式での聞き取り調査が技術的に可能であるが、対象者のほとんどが高齢者であり、そのようなシステムに不慣れであることや通信料を気にすること等もあり、実施が難しい場合が多い。そこで、人との対面が限られ、対面時間が比較的に短くなる資料収集や、昨年度購入した測量機器を用いての避難環境の確認調査等を中心に行い、避難行動が行われた場所(避難県境)や避難所空間の再現も含めて、研究課題に広く取り組むこととしたい。 これについては、前年度から,聞き取り調査の内容を「広義の避難行動」としており、避難所や自宅での避難生活も含めた内容としていることから、行政等から提供を受けた設計図等も活用して,避難生活をパーソナル・スケールで空間的な再現に役立てたい。 一方,防災教育教材の開発については,鹿児島県専門防災アドバイザーとしての活動等の中で,本研究で開発した教材を用いて,その運用の試行を継続したい。2022年度にも、宇検村、喜界町、龍郷町、奄美市等でワークショップを実施する予定であり,汎用性が高い教育プログラムの開発につなげたい。 なお,ワクチン接種等が進み、COVID-19対策が強化されたものの、「新しい生活様式」に対応した調査研究を実施する必要があり、2022年度にも聞き取り調査については実施できない可能性が高い。その場合、最終年度の2022年度に「補助事業期間延長承認申請書」を提出して,1年間の研究延期をお願いしたい意向である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、本研究の中心的業務である聞き取り調査を実施できなかったことから、岩手県への出張が計画通りにできていない。本研究課題の「避難行動」をより広義に捉えることによって、避難環境や避難所も研究対象に含まれることから、聞き取り調査が十分に実施できない場合でも、そのデータをより生かすために避難環境等を対象とした測量等の調査も同時に行い、研究課題を遂行したい。 なお,2022年度にも聞き取り調査を十分に実施できない場合には、最終年度の2022年度に「補助事業期間延長承認申請書」を提出して,1年間の研究延期をお願いしたい意向である。
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