研究課題/領域番号 |
18K01149
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ランドスケープ / 空間政策 / 地理学 / ヨーロッパ / スペイン |
研究実績の概要 |
本研究では,ランドスケープ政策に参画する地理学の学問的基盤について,隣り合う学との協働,社会との関係の結び方,両者の土台をなす社会発展に関する思想,という3つの問いの考究を通じて明らかにする。そのための手順として,研究期間のうち3年間をかけて,地理学界のランドスケープ政策への深い関与がみられるスペインに絞った調査を行うこととした。 アンダルシア自治州を対象とした初年度につづき,2年目にあたる2019年度は,いったん後回しにしたカタルーニャ自治州のランドスケープ政策に的を定めて,2回の現地調査を実施した。 1回目の調査(5~6月)は,ランドスケープ政策に携わる専門家・実務家の養成をテーマとして実施した。そのために,当該分野を扱うカタルーニャ自治州内の大学教育課程としては,唯一,地理学者がディレクターを務めるバルセロナ自治大学(UAB)ランドスケープ・文化遺産マネジメント修士コースを訪問した。ディレクターへのインタビューや教育プログラムに関する資料収集などの基礎的作業に加えて,調査期間中に同コースが実施した国際ワークショップに自身が講師として参加し,濃密な参与観察を行った。 2回目の調査(9月)では,カタルーニャ自治州によるランドスケープ政策の現段階を確認するため,ランドスケープ観測院長へのインタビューを行い,ランドスケープカタログの制作および地域計画におけるランドスケープの質目標の設定を中心に,これまでの成果を問うた。そのうえで,カタルーニャ自治州の際立った特徴として,ランドスケープに関わる活発な市民運動に注目し,市民団体と行政の関わり方が異なる3つの具体的事例に関する踏み込んだ調査を行った。 以上を通じて,カタルーニャ自治州のランドスケープ政策を支える市民社会の裾野の大きさが確認されると同時に,市民運動への積極的支援を含む地理学専門家の深い関与の実態が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,研究期間のうち中盤までの3年間をかけて,スペインのカタルーニャ自治州,アンダルシア自治州,ガリシア自治州を対象とする集中的な調査にあたることを予定した。このうちカタルーニャ自治州およびアンダルシア自治州に関する調査が2年目までに一応の完了をみた。 1年目に取り組んだアンダルシア自治州のランドスケープ政策に関わる研究成果は,すでに日本語論文,英語論文各1本として公表し,加えて,イスタンブルで開催された地中海研究の国際ワークショップにおいて,口頭の研究報告を行った。カタルーニャ自治州のランドスケープ政策についても,すでに日本地理学会の2020年春季学術大会において発表(COVID-19感染症問題の影響を受けて大会開催は見送られたが,J-Stageへの搭載を含む大会要旨集への掲載をもって,報告が成立したものとするとの学会からの正式案内があった)している。併せて,ランドスケープに関する地理学的視点からの論考を,ヨーロッパの地理に関する啓蒙書などの中で積極的に発信している。 以上により,本研究はおおむね順調に進展しているものと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では,研究期間中の3年目にガリシア自治州のランドスケープ政策に関する現地調査を行い,スペインにおける調査研究に一区切りつけたうえで,ヨーロッパの他国へと視野を広げることを予定した。 ガリシア自治州は,カタルーニャ自治州と同様,自治州内全域をカバーするランドスケープカタログを制作するなど,ランドスケープ政策の推進において一定の実績を上げている。しかし,開発主義と結び付いた保守系勢力が長く自治州政権を掌握してきたことなどを背景として,地域計画の策定や環境保全政策の推進については相対的に消極的な側面をもつと考えられる。この意味で,ガリシア自治州の事例を加えることは,スペインにおける自治州主体のランドスケープ政策に関して,自治州間のバラつきを考慮した総合評価を試みるうえで,有意義と考えられる。 また,スペインとの比較でヨーロッパスケールに研究対象を広げるにさいしては,イタリアを最初の調査地として想定している。イタリアは,歴史的建造物の保存修復(レスタウロ)を組み入れた都市組織の再整備,ランドスケープに基礎を置く都市計画と地域計画の接続など,ランドスケープ政策に関わる先進的取組みを進めてきた事例として注目に値すると考える。 しかしながら,COVID-19感染症問題の影響により,現時点では今年度の現地調査実施に関わる目途が立たないのが実情であり,研究計画に示した年度別スケジュールを維持することができるかどうかは予断を許さない。海外渡航による調査実施が困難な状況が続く場合は,日本からでも可能な研究資料の入手と手持ち文献等の整理・精読にもとづく研究課題の整理を行い,現地調査への復帰は来年度に持ち越す可能性も視野に入れることにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元(平成31)年度に実施を予定していた2回の海外フィールド調査のうち,1回目については,勤務先大学での公務上の制約により,当初の計画を短縮した日程で実施した。このため,旅費の支出額が想定を下回った。 令和2年度には,スペイン・ガリシア自治州のランドスケープ政策に関する現地調査のほか,イタリアに研究対象の範囲を広げる計画である。それらの実施に関わる旅費並びに関連する資料収集のために,前年度からの繰越額を含めて,助成金を有効活用すべく計画を立てている。
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