本研究の最終年度の主たる研究課題は、成長都市圏内における地区コミュニティレベルでの居住施策が、中間所得層を包摂する新たな住宅政策パラダイムに基づいて再編されるプロセスと、それが地区の住宅市場や住民構成に及ぼす影響に関する分析をさらに深めていくことであった。この課題を遂行するため、ドイツ連邦・州・自治体の住宅政策の動向に関する文献・資料や、現地関係機関が公表している公文書類を引き続き収集した。あわせて、これまでに現地調査を行った地区再開発事業に関しては、中間所得層向け低廉住宅の建設プロジェクト、宅地開発に対する公有地の提供などといった、その後の注目すべき展開についてインターネットを通じて資料を収集し、分析を行った。 あわせて、これまで実施した住宅政策専門家や地区再開発事業担当者、ならびに各事業地区で活動している地区再開発協議会や住宅企業などに対するインタビューの成果を分析した。その際、直近の動向と密接に関連する取り組みについては、メールを使用してインタビュー相手に問い合わせて確認した。こうした作業を通じて、地区の性格や担い手、事業目的を異にする住宅地開発事業の多様な実態に関する知見を深めることができた。 また、「賃貸住宅管理の国際比較セミナー」(2021年9月、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会東京都支部主催)にパネリストとして招聘され、「ドイツの住宅政策と賃貸住宅」と題する講演を行うとともに、フランス住宅政策研究者を交えてのディスカッションに参加した。講演においては、社会住宅と民間賃貸住宅との比較を概説した後、ハンブルクをはじめとする成長大都市圏においてはアフォーダブル住宅の不足が近年における市場家賃の上昇をもたらしており、そのことが住宅企業による活発な宅地開発事業につながっている点などを指摘するとともに、今後のドイツ住宅政策の展望を行った。
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