本研究の第1の目的は、渋谷再開発によって業務・居住・消費空間が再編されることに伴って生じる働き方の変化や「新しい職住近接」の実態について、クリエイティブワーカーが仕事の受注・遂行にかかわるネットワークを構築したり、仕事にかかわる情報や知識を獲得したりする場所を聞き取り・アンケート調査を通じて把握し、時間・空間的に分析することであった。 2018年度には、再開発によって整備されたコワーキングスペースや居住空間を運営する事業者への聞き取りを実施した。2019年度はクリエイティブワーカーの業務空間の分布や、働く場所や住む場所に対する価値観などについて聞き取りを行い、アンケート調査の準備を進めた。だが、コロナによる行動制限のため、結果的にアンケート調査を実施することはできなかった。 2020年度は渋谷再開発の経緯やビジョン等についての調査を進めた。渋谷再開発を国際的な都市間競争や都市再生政策などの文脈の中に位置づけ、人文地理学会において研究発表を行った。2021年度はオフィス賃料や空室率の動向やオフィス再編の動きについて分析し、日本学術会議地域学分科会において研究発表を行った。 2022年度以降は第2の目的である再開発に伴う地域コミュニティの変容の解明に研究の軸足を移し、再開発によって創出された公共空間を活用して新たに生まれた地域の祭り(渋三さくら祭)を対象として、参与観察や文献調査を実施した。 2023年度も参与観察と文献調査を継続し、再開発の事業者(産)や自治体(官)が、地域の住民や事業者(地元)に働きかけて彼らの主体的な取り組みを引き出し、近隣の大学(学)も巻き込んで、4者一体でまちづくりを進めている実態を調べた。5年間にわたって祭りを続ける中で、参加するアクターが増えるとともに、4者の役割や関係性にも変化が生じるなど、地域コミュニティが変容する過程をとらえることができた。
|