本研究は、風水地理思想をはじめとした東アジアの伝統的地理思想において、いかなる場所が「吉地」とされるのかについて探究するものである。本年度は前年度までにコロナ禍で実施できなかった台湾における「吉地」の検討を行った。 なお、本年度より分担者の浦山隆一氏が定年で勤務校を退職されたため、研究協力者の鈴木一馨(鶴見大学)氏、韓国の研究協力者である崔元碩氏(慶尚大学校慶南文化研究所)と研究を進めた。 その際に3名の研究蓄積を整理し、その中で台湾の位置づけを構想しつつ台湾における風水地理思想の様相について文献研究を行うこととした。この際には、2007年頃に澁谷が作成した台湾の風水研究の文献リストを用いた。 その結果、台湾の場合、①韓国における研究動向に比して「風水」そのものへの関心が薄い。②台湾はいわば漢族文化の新開地であり、風水地理思想の蓄積が少ないと推測されること、③その反面、台湾の事例としては時代的に新しい姿の風水が見られるのではないかという3点が理解された。 また、これら検討の上で、代表者の渋谷と鈴木は2024年2月に台北市周辺に赴き、現代台湾における風水「吉地」について現地調査を行った。特に伝統的な移築家屋、道教寺院・仏教寺院、公園、集合住宅についてその風水論理を検討した。その結果、台湾では韓国の風水で重視される山々の尾根に当たる「龍脈」へのこだわりがやや薄いように理解される。このように東アジアの「吉地」評価の相違や変化や留意すべきことが理解された。
|