研究課題/領域番号 |
18K01158
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
杉浦 真一郎 名城大学, 都市情報学部, 教授 (50324059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地域包括ケア / 地域包括支援センター / 介護保険 / 広域連合 / 日常生活圏域 |
研究実績の概要 |
三重県鈴鹿市および亀山市の2市で構成される鈴鹿亀山地区広域連合における地域包括ケアシステムをめぐって,それを推進する地域的枠組みとしての日常生活圏域の設定と地域包括支援センターの機能配置による体制構築の状況を明らかにした上で,圏域再編と地域包括支援センターの再配置の状況について分析した。また,今後地域包括ケアをめぐる圏域の再編とそれに伴う地域包括支援センターなど拠点の再配置を検討する保険者地域が全国的にも増加していくと予想される中,本研究での知見を踏まえて,その円滑な移行と安定的な運用に必要な方策について考察した。第1には,担い手の確保の問題があり,必要な専門職を確保し,かつ雇用を維持することに必要なコストを低減させることが,包括の運営を引き受ける法人を増やすことにつながる可能性がある。その一環として,「地域医療介護総合確保基金」における「介護従事者の確保分」による人材確保につながるソフト面でのテコ入れは有効な対策となりうる。第2は,住民や地域団体との関係構築の問題である。地域包括ケアの圏域が,住民にとって認知しやすい地域的枠組みとどの程度一致するのかに関して,中学校区が日常生活圏域として介護保険で活用される目安となっている一方で,既存の行政的な枠組みがそれに一致しているか否かも問題である。一般の住民が十分に認知していない枠組みで圏域を設定しても,包括にとって,住民による自治会や民児協など地域団体との連携は図りにくいことが予想される。第3は,地域的・組織的階層性と地域包括ケアのあり方に関する問題である。保険者と個別の地域包括との間で階層的な空隙を埋める位置づけが与えられる基幹型包括支援センターの役割に鑑み,保険者が人的・予算的な面はもちろんのこと,地域包括ケアを推進する上で生じる様々な課題をめぐっていかにサポートできるかが重要となってくる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査地域において第7期介護保険事業計画期間から同じく第8期への移行に伴って,圏域再編および拠点再配置等をめぐって,地域包括ケアシステムの体制が従来になく大幅な動態的変化を見せている様子を観察する機会を得ることができた。併せて,今後の全国的な同様の再編過程において参考となるような示唆を得るに至った。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題として掲げていた主な研究課題を進展させることが大きな方向性として挙げられる。まずは地域包括ケアに関わる行政上の地域的枠組みとして地域包括支援センターの分割配置の実情をより詳細に分析し,直営による単一エリアからの異動に伴う地域包括ケアの変動や生じた影響を明らかにする。また,同様に高齢者への施策である点で地域包括とも関連しながら,従来は対象者の違いから関連性が検討されにくかった施設型サービスの基盤整備に関しても,介護保険料とのバランスを重視する市町村の意思決定が実質的には重要になる傾向をもつ地域が増えるなかで,都道府県別にみた傾向の違いや市町村との関係性がもたらす都道府県の姿勢について論じていく。また,行財政システムの持続的な展開を念頭に,その望ましい地域的枠組みを具体例に則して探究することが本研究課題におけるタスクであることを踏まえ,上述したような介護分野に加えて,一票の格差是正を背景とした再編が進む選挙区に着目し,それら選挙区再編の状況が,有権者と投票先との関係性を変化させ,投票行動にもたらす影響や有権者の代表制と地域との関係の観点でいかなる意味をもつのかを分析する。最終的には,各分野に関する具体的な再編プロセスやその影響から,再編をめぐる長所や短所を解明し,行財政の地域的枠組みに関する望ましいあり方について考察していく。さらに,研究計画として当初から考えている主な研究課題を実施するとともに,主としてこれまで実施してきた地域包括ケアシステムをめぐる機能配置やその再編過程の分析について,より広範な地域を対象に,直近の第8期介護保険事業計画期間への移行に伴う異動がどの程度見られたかを調査することも,行財政の地域的枠組みの変動すなわちリスケーリングに関する実態解明とその意義についての研究を深めていく上で重要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用予定額として想定していた調査出張に関して,社会情勢の急速かつ深刻な変動に伴って,調査日程の調整と確定に時間をかける必要があったため,無理な調査日程を組まずに慎重な経費執行を選択した。次年度は本務校での業務の一部が軽減される部分があることから,調査等の日程確保も前年度と比較して展望しやすいと考えている。
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